私評 『 関羽 』

神様にまでなった名将は、

色々な意味で人間味溢れる男だったりする
 
中国全土と世界各地の華僑の街に存在する関帝廟。そこには、神となった関羽が祭られている。
義理を何よりも重んじた人物だけに、商売の神様としても崇められているのは納得できるというもの。

三国志で一番の武将と言えば、やっぱり関羽なのだろう

……しかし。三国志演義で描かれている剛毅の化身みたい関羽も魅力的だけど、史実に書かれ演義で書かれていない関羽の「人間」としての一面も魅力的なんだな、これが。

以下、ちょっと紹介してみよう。
 
*「その1、色ボケな関羽」

劉備と曹操がタッグを組んで呂布の城を攻めていたときのこと。
ようやく敵の城を落城寸前にまで追いこんだとき。そりゃまぁ熱心に関羽は曹操に直訴したという。

「曹操殿。呂布の元には秦宣禄という武将がいるのですが、その妻がこれまた美人だそうです。城を落としたアカツキには、それがしにその女性を褒美として与えてくだされッ!」

それも1度や2度でなく再三 頼み込んだというから、曹操からすればさぞかしウザったかったであろう。
 …………でもねぇ、関羽。あなた間違ってやしませんか?

戦争はまだ、終っていないんだし。仕事そっちのけで色恋はまずいでしょう。

第一、相手は人妻だし。人の道にはずれた恋ですよ、それ。

それに何よりも。頼む相手が間違ってるってば。曹操のような人妻マニアにそんな情報与えるなんて。
 
あの男ときたら、
若いころには花嫁泥棒に日々 精を出し、
年を取ってからも「鄒氏・甄氏・蔡・大喬・小喬といった有名人妻」を
ゲットするためなら戦争も辞さなかった、
札付きの変態野郎
なのだからッ。

……案の定、曹操はキッチリ 関羽との約束を破り、秦夫人を自分の物にしてしまったという。歴史書の一節には、
「曹操は秦氏を手元にとどめ、それが理由で関羽の心は落ち着かなかった」
と、記されている。

……まぁ、そりゃ、惚れた女を変態野郎に横取りされちゃー、平静ではいられんだろうなぁ……。

案外、後に関羽が曹操に一時的に仕えたのは、その人妻に未練があったからかもしれない。


*「その2、愚痴る関羽」


劉備が曹操に追われ、命からがら長坂橋から脱出して関羽と合流した時のこと。

関羽は劉備に

「だから、言ったでしょーが。そのむかし許都での狩りの際、
 私の言う通り曹操を殺しておけば、
 今日になってこんな目に会うこたぁなかったんだッ!」


などと愚痴っている。劉備が曹操の手下だった時代、
隙だらけの曹操を殺すチャンスを活かさなかったことを悔やんでも後の祭りだろうに。

劉備は劉備で、

「あの時は曹操が天下国家のために必要だったため、惜しんだのだ」

とか減らず口を叩いているが、
さすがに明日をも知れないお先真っ暗闇な状態では説得力はなかっただろう

……とは言え。

『蜀記』という書物に記されている二人のやりとりからは、
弱音を吐いて余裕の無い関羽に対し、
キレイ言を口にできる劉備の方が窮地における強さを感じられて興味深い。


*「その3、ピンチの際は敵にへつらう関羽」

荊州を守っていた関羽が、呉と魏の両方を敵にまわしたときのこと。
呉の呂蒙の策で拠点の城を奪われ、魏の徐晃の猛攻に陣を破られて完全に敵に包囲されてしまうなど、関羽 孤立無援の大ピンチであった。

だが、曹操陣営に所属していた時代に徐晃とはマブダチの関係を築いている。よって徐晃に包囲されても、二人はすぐには矛を交えず、戦場で言葉を交わし合い始めた。

しばらくは戦とは無縁の思い出話や世間話などをしていたのだが、いきなり徐晃が会話を打ち切り

「我が軍の兵士達に告ぐ。関羽を討ち取ったものには褒美を与えるぞッ」
 
と叫び、戦闘を再開させる。

大兄、これはどうしたことだ!?」
 
驚いた関羽の言葉に、

「公と私は別だ。今 それがしは公の立場で戦場に立っているのだ!」
 
と、徐晃は答えたという。
敵味方に別れた武将達の哀しいエピソードとして、演義でも採用された有名な話である。

しかし。しかしですね。
……ここでの両者のやりとりは、非常に対称的ではないでしょーか? 
 
友情に流されることなく敵将に接する徐晃の武者振りに比べると、
友情にすがって敵将を「アニキ呼ばわり」する関羽はハッキリ言えば情けない。

おそらくは徐晃の方が関羽よりも年上だったのだろうが、
関羽が普段から徐晃を「大兄」と呼んでいたとは思えないので、
やはりピンチにさらされた関羽が徐晃に対し
往生際の悪いところを示してしまったと見たほうがいいだろう。

百歩譲って、関羽が普段から徐晃を「大兄」と呼んで尊敬していたとしても。

敵味方の兵士が見守るなか、敵の大将に対して

「徐晃のアニキ、そりゃねぇよッ!」

とか言ってしまったのは、立場上どうかと思う。



……そんなこんなで。以上、関羽の意外な一面を列挙してみたわけだけど。

こうやって見ると、色恋に際してはなりふり構わなかったり、
過去の失敗を蒸し返したり、危機に瀕しては相手に泣きついたり、
と結構 格好悪いエピソードが多い。


しかし、人間ってそんなもんじゃないでしょうか? 

 
実際の関羽は神様ではなかったのだから。
窮地に立たされて弱さを露呈したっていいじゃないすか。

関羽の本当に偉大なトコロは、そんな普通の人間が持つ弱さを持ちつつも、生涯 徹底して劉備に忠誠を誓った義士としての生き様だと思う次第。

血縁や地縁による人々の繋がりが強かった三国時代、
関羽のように「心の繋がり」を信じて主に仕え
全国を放浪すること自体、凄いことだったのだから。


 
 30年以上も劉備に仕え、

 曹操の厚遇に甘えることもなく、

 孫権に命乞いすることもなかった

 
「義士」関羽。


そんな男が時々 見せた人間臭さがたまらなく好きなのは、自分だけでしょうか?