三国劇場
魯粛七変化
作: とます 様




建安19年。(西暦214年)

劉備は蜀の成都に入城し、益州牧となる。

劉備

これにより、ようやく劉備陣営も、国としての基盤が整ったのであった。


しかし。

同盟関係にあった孫呉との関係も、大きな変化を迎えることとなる。



孫権

呉の孫権は、劉備陣営に対し、荊州の領有権の返還を要請。



両国にとって荊州は、経済・軍事の最重要地域である。


やがて、共に譲ることのない双方の主張は、
深刻な対立として、表面化する。



孫権は、己の右腕とも言うべき、稀代の戦略家 魯粛を。

劉備は、絶対の信頼を置く、最強の武将 関羽を。



魯粛 VS 関羽


呉蜀それぞれの覇権を争うべく。

……今、二人の荊州方面 総司令官が、火花を散らす……






呉国にて



魯粛 何とか関羽を説き伏せ荊州を取り戻さねば……。

しかし、あの頑固者。私が言っても聞かないだろう。
どうしたものか……。

魯粛 そうだ。関羽とて人の子。

女性相手に無茶なことはすまい。ここは我が秘術をもって……。



荊州にて



兵士 将軍、女性が面会を申し出ております。

陳情したき事があるとか。

関羽 ほう、そうか。これへ通せ。



関羽様、私は今は荊州の民ですが、元は呉の生まれ。

蜀呉の抗争で、今や郷里との行き来もままなりません。

お願いです。私ども民のためにも、荊州を呉にお返しくださいませ。


関羽 ……そうか。

ならば我が兵に命じて、あなただけ呉にお送りいたそう……魯粛殿。



ベリッ(仮面を剥ぐ音)



魯粛 くっ……何故だ、何故わかった!?

関羽 そんな野太い声の女性がいるか。

者ども、コヤツを叩き出せ!



魯粛 くそっ、憶えておれ!



魯粛、逃走






呉の陣中



魯粛 おのれ関羽め、我が変装を見破るとは!!

陸遜 やはり、女装なんかしても無理ですよ。


魯粛 うむ……だが方向性としては悪くなかったと思うぞ。

陸遜 (そ、そうかな?)

魯粛 他に、関羽に対して意見できそうな奴といえば……。



数日後 荊州



関羽 なに、曹操殿が直々に訪ねてきたと?

兵士 はい。

内密の話があり、お忍びで来られたそうです。



関羽 よかろう。

ここへお通しせよ。



曹操 関羽よ、久しいな。

関羽 ……。



曹操 話というのは他でもない。
かつての私との友誼に免じて、ここは呉に荊州を…。

…って、こら、何をする! 離せ!



ベリッ



関羽 こんな大柄な曹操がいるか。

者ども、叩き出せ!

魯粛 くっ……これで勝ったと思うな!



魯粛、逃走





呉の陣中


魯粛 ……考えてみれば、今は関羽と曹操とは敵同士。

敵の言うことを聞くはずもなかったな。

陸遜 いや、そういう問題ではないと思います……。

魯粛 もっとストレートに、義兄弟に化けて行けば成功するだろう!!

陸遜 ( 聞いてないよ、この人…… )




数日後 荊州




関羽 張飛が訪ねてきたと? 

……よかろう。ここへ通せ。

張飛 よう、兄貴。

俺も考えたんだが、やっぱり天下三分の計に従って
蜀の安泰を図るためには、ここらで呉に荊州を譲っ……。



げしっ(殴打)



張飛 ぐぉっ!? 何をする、兄貴! 

いきなり殴るとは!!



ベリッ



関羽 張飛が、そんな分別じみたことを言うか。捕らえろ!

魯粛 くっ、またしても!



数日後 荊州



関羽 全く魯粛も執念深い男だ。

また、いつ現れるか分からんな。注意せねば。



兵士 将軍、殿がお越しです。

関羽 何? 

ふん……今度は兄者に化けてきたか。
その手には乗らんぞ。




劉備 おう、関羽。久しいな。
荊州の地で、孤軍奮闘しておるオマエをねぎらってやりたくなっての。(笑)

ほれ、酒も持参したのだぞ?

関羽 (何を馴れ馴れしい)

劉備 久々に飲もうではないか。

蜀の本拠地、益州の酒じゃ。
オマエにも飲ませてやりたくてのぉ。(笑)

関羽 (おおかた酒に薬でも入れておるのだろう)



劉備 おい、どうした関羽?

関羽 魯粛、騙されんぞ、覚悟!

劉備 か、関羽、耳を掴むな、放せ! 

痛い、痛い!!

関羽 もっともらしく、こんな大きい付け耳まで用意しおって!

今すぐ化けの皮を剥いでくれるわ!



ぶちっ



劉備 ぎゃっ!!

関羽 むっ? この血は……まさか本物?


劉備 ぐぅぅ……。

関羽 た、誰かある! 華佗を呼んでまいれ!

劉備 うぅぅ……。



関羽 ……え、えーと……兄者……?

……てっきり魯粛だと思って……。

劉備 ……。(怒)

関羽 ……耳、大丈夫……?



関羽 あの……今すぐ付け直させるから……。

劉備 ……帰る。(怒)



その後、劉備と関羽が会うことは、二度となかったとか。





天猿 コメント いやはや。意思の疎通とは、ままならないものですなぁ♪

……と言え、マジメな話。
西暦214年から219年にかけての関羽が、
相当の重責に苦しめられていたのは事実です。

劉備に任されていた荊州の領有権は、
事実上 一国の運営に近いものでした。

そして、劉備の本拠地だった益州の成都と、
関羽が守る荊州の江稜は、あまりにも離れていたのです。

そう考えると、劇中の関羽にも、ちょっと同情の余地アリですねぇ。(苦笑)