三国劇場
金の斧 銀の斧
作: 天猿



呉の孫権は、大変な酒好きで、
おまけに最悪の酒乱であったという。



この日も、湖に船を浮かべて大宴会に興じていた。

……迷惑顔の家臣達を尻目に……



孫権 うははははっ。

飲むぞ飲むぞ飲むぞ飲むぞ飲むぞ飲むぞぉ♪
酒、酒、酒、酒、酒、酒、酒ぇッ!! うっきょぉ〜〜♪(泥酔)


張昭 ……………………。

呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 ……うう……。

( わが殿の酒癖の悪さには、困ったものだ )






孫権 今日は皆で大いに飲み、

船から落っこちるまで飲むのだぁああッ!(酔)

張昭 いい加減に、しなされ! 我が殿!!

呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 ( ナイス! さすがは張昭殿だ )



孫権 やい、ジジイッ!

皆と楽しんでいるだけなのに、
何に腹を立ててるんだよッ!?(酔)

張昭 贅沢で遊び好きの王様の為に滅びてしまった、殷という国をご存じですか?

その王様も、お酒が大好きでした。
酒粕の丘と酒の池を作り、連日連夜の酒宴を開いていたそうです。

張昭 ……しかし、その王様も国が滅びるまでは、
その乱痴気騒ぎを、楽しみのためだと考え、悪事をしているとは
思っていなかったのでしょう。

張昭 おわかりですか?

一国の王たるもの、自分を律するということを
知らねばならないのですぞッ!!



呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 ( さすがは張昭殿だ。

 普段は口うるさくても、こういう時は頼りになるなぁッ! )




孫権 ………………………。

張昭 ふふ。

どうやら、酔いが覚めたようですね?(笑)



孫権 ……ウィ〜〜……、……ヒック……? (酔)

……………わからん……。
ジジイ、おまえがいったい何を言っとるのか、全然わからんッ!!

張昭 ……う。

( あ、あれ? 筋書きでは、ここで孫権様が
反省して、めでたしめでたし、のハズなのだが……)



呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 ( こ、ここまで酔っぱらっているとは!?

 …どーやら話が違ってきているようだ )




孫権 口うるさいジジイめ!!

喰らえ!! 
ギャラクティカ・マグナム・孫権ばんち!!(酔)



バキッ



張昭 ……ぐッ、

ぐははぁ〜〜ッ!?

呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 …………ッ!?



どぼ〜〜〜ん!!



孫権 ふふふ。これは傑作よの。

最初に、湖へと落っこちるのが
あやつだったとはのう!

孫権 なんぴとたりとも、
俺の酒の邪魔をすることは許さぬのだぁ♪(酔)



黄蓋 しゃ、洒落になってませんぞ、殿!



孫権 ……うーむ……。
暴れたら、眠くなってきた……。

おやすみなさぁ〜〜〜い♪(酔)



呂蒙 ちょ、ちょっとッ……! (怒)




孫権 ぐぅ〜〜〜、ぐぅ〜〜〜〜。(眠)




呂蒙 ね、寝ちまった。

……まぁ、いいか。
起こして、また暴れ回られても困るしな……。

陸遜 ……あ、あの。

張昭殿、沈んだきり浮かんでこないのですが……。

潘璋 あッ!?

……そ、そう言えば……!




呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 ひぃいいいいッ!?

ちょ、張昭殿〜〜〜ッ!!(泣)





どろろろ〜ん♪ (泉の精 登場)



泉の精 お嘆きになることはありませんわ♪

働き者の木こり……もとい、武将の皆さん。





潘璋 ……う?

あなたはいったい……!?

泉の精 うふふ。

私は、水の女神 『洛神』。

泉の精 この泉に住む『泉の精』と
説明すれば、いいかしら。(笑)

あなた方の嘆く声を
哀れに思い、現れたのですわ♪



陸遜 気のせいでしょうか?

魏の甄姫殿に、とっても似ているような……。

黄蓋 ……そもそも。

ここは、泉というより湖なのじゃが……。



泉の精 ……おだまり。(怒)

陸遜 黄蓋 ひぃッ。






呂蒙 ……あ、あの。
泉の精霊、ということは。

ひょっとして、落とし物を返してくれたりする、アレですか?

泉の精 ええ。
ようやく、本題に入れそうね。(笑)

あなた方が落としたのは……。




呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 どきどき。




泉の精 あなた方が落としたのは、この金の張昭ですか?




泉の精 それとも、この銀の張昭ですか?




泉の精 あるいは、この古ぼけた普通の張昭ですか?






呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 え、えーと……。




陸遜 ひとつ、参考までに質問して よろしいでしょうか?

金の張昭、銀の張昭とは、どのような張昭なのですか?

泉の精 いい質問ね。書いて字のごとく、
純金製の張昭と、純銀製の張昭よ。

口やかましくない、とても静かな張昭ですわ♪

黄蓋 ……普通の張昭は?

泉の精 普通の張昭は、普通の張昭に決まってますわ。

口やかましくて、頑固で、主君と喧嘩ばっかりする張昭です♪

呂蒙 うーむ。

やっぱりそぉですか……。




陸遜 ひそひそ。

( どうします?)

呂蒙 ひそひそ。

( やはり、ここは正直に答えるのが一番であろう )

潘璋 ひそひそ。

( うむ。金の張昭、銀の張昭も魅力的ではあるが…… )

黄蓋 こくり。

( 孫権様の暴走を止めてくれるのは、普通の張昭だからな )




泉の精 お決まりのようですね。



呂蒙 はい。

我々が落としたのは、古ぼけた普通の張昭です。

陸遜 金の張昭・銀の張昭のような、立派な張昭ではありません。

黄蓋 口やかましい頑固老人の、張昭なのです。

潘璋 どうか、私たちに張昭を返して下さい。





泉の精 なんと正直な、武将達なのでしょう。

とっても、感動しましたわ♪



呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 いえいえ。(笑)



泉の精 ご褒美として、金の張昭・銀の張昭を、与えましょう。




呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 へ?



泉の精 では、ごきげんよう♪



どろろろ〜ん♪ (泉の精 退場 )





呂蒙 え、えーと?

陸遜 ……あ!

そう言えば、あの話って……。

黄蓋 ……し、しまった……。

そんなオチだったかのぅ?





呂蒙 ど、どーする?

陸遜 黄蓋 潘璋 ……う、うーむ……。

( どおする、って言われてもなぁ……)





翌日









孫権 ……うん?

なんだ、この悪趣味な張昭の像は?



呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 え?

お、覚えていないのですか?
昨日、自分が湖に突き落としたんじゃないっすか。




孫権 はぁ?
わけのわからんことを……。

どうやったら人間が湖に落ちて、金と銀になるのか?

呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 そ、それは……。



孫権 ……まぁ、いい。


孫権 こっちの張昭の方が、

口うるさくない分、まだマシだしな。(笑)



呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 (ひど……)



孫権 ……それにしても。

見れば見るほど、悪趣味な彫像よ。


孫権 うむ、決めたぞ!

この彫像を肴(さかな)にして、
今日も皆で大宴会だ!!(笑)



呂蒙 陸遜 黄蓋 潘璋 うう……。
ちょ、張昭どのぉ〜〜。(泣)

( やはり、我々には貴方が必要ですぅ…… )



ちなみに。

この後、呉の将軍達は再び 泉の精のもとへ出向き、
必死に懇願して、張昭を返してもらったそうな。


後に、皇帝に即位した孫権は、


孫権 宮中では、皆が私を尊敬してくれるが。

宮中から一歩 外に出ると、皆 張昭の方を敬っておる。
これではやりにくくて、仕方がないぞ!


……と、グチをこぼすことも多かったというが。


それはそれで、
仕方のなかったことなのかもしれない。