三国劇場 |
少年と小覇王 | |
作: 天猿 |
呉の呂蒙は、寒門の出自。
少年時代は、非常に貧しかったという。
……これは、呂蒙が十五歳の少年だったころのお話……
家が貧しいばかりに、母上にはいつも苦労をさせている。 ……お金さえ、あればなぁ。 |
しかし。 俺のような、貧乏人の息子が、どんなに働いたところで 稼げる金など、たかが知れていよう。 |
……さて、どうしたものか……。 |
……そうだ! 戦場に、出よう。 命がけで戦えば、お給金だって はずんでもらえるに違いない!! |
たとえ、この命を 危険にさらすことになろうとも。 俺は、一日でも早く母上に楽をさせてあげたいのだ! |
やい、この阿蒙め! |
あ、先輩。 |
いつもいつも、みすぼらしいナリしてんじゃねーよ! おめぇの横にいる俺まで、貧乏くさく見えちまうじゃねーか? |
……く……。 |
あぁん? なんだぁ、その目は? 阿蒙の分際で! |
……あ、阿蒙って呼ぶのはやめてください! 阿蒙、って『蒙ちゃん』という意味でしょ? 俺には、子明って立派な字(あざな)があるんです! |
ははは、何が子明だ? オマエみたいに、字も読めない無学なガキは、 『蒙ちゃん』で充分だ!! |
お、俺だって好きで字が読めないワケじゃない! 貧しくて、学問を修めることができなかっただけです!! |
けッ! 貧乏人が生意気な! ええぃ、この隊から出て行け!! |
……な……!? |
オマエみたいな 金に困ってるヤツは油断ならないんだよ! いつ、モノを盗まれるか、わかったもんじゃないからなぁ!? |
……そ、そんな……。(涙) |
うははははは!! 貧乏人のガキが、涙ぐんでやがるぜ! ますます、みじめだなぁ♪ |
……ゆ、ゆるせない……。 う、うあぁあああああああああ!! |
ぐぁあああああああああああ!! |
……は!? |
あ、頭に血がのぼっていたとは言え。 お、俺はなんということをしてしまったのだ……。 |
……ううぅ……。(涙) …いや、しかし。……せめて。 母上に罪が及ぶようなことだけは避けなくては……。 |
あぁん? なんだ、オメェは? |
……そ、孫策さま……。お、お目通りを失礼します。 お、俺。りょ、呂蒙って言います。 貴方の隊で働いている、下っ端の兵士です……。 |
……ふぅん? で? その下っ端の兵士が、俺に何の用だ? |
……実は、俺……。 とんでもない事をしてしまって……。(泣) |
ははははははははははッ!! |
!? |
なかなか見所のあるガキじゃねぇか? ……気に入ったぜ!! |
え? |
ええと、呂蒙とか言ったか? オマエ、今後は従卒として俺に仕えろ!! |
……え……ええ!? いいんですか? 俺、てっきり斬られるとばかり……。 |
へッ!(笑) 別に無罪放免ってワケじゃねぇ。 俺の直属で働くのは、なかなかハードだぜ? |
……うぅ……。(感涙) ありがとうございますッ! ありがとうございますッ!! |
孫策サマとは、なんと心の広いお方であろう。 さすが、若くして小覇王と呼ばれるだけのことはある。 |
決めたぞ。俺は、あの人について行く。 この命、孫呉に捧げるのだ!! |
……はぁ〜〜……。 |
……おや? みなさま、お揃いで。 何を、悩んでいるのですか? |
うむ。 実は、人事官の魏騰という男が、 孫策殿の怒りを買ってな。 |
伯符のヤツ、 魏騰を殺すと言ってきかんのだ。 |
……しかし、話を聞くかぎり。 魏騰も殺されるほどのコトをしたと思えないしなぁ。 なんとか命だけは救ってやりたいのだが。 |
で、では。 皆で、陳情に参りませんか? 俺の時は、広い心で許してくれましたし……。 |
……うーん。 無駄だと思うけどなぁ……。 |
?? |
……伯符の場合、広い心と言うより、単に……。 |
?? |
……いや、いい。なんでもない。 少年の、夢を壊すようなコトは言いたくないしな……。 |
…………?? |
……と、とにかく。呂蒙の言うコトも、もっともではある。 やはり、もう一度 我々からも孫策サマに、 魏騰の処刑を思いとどまるよう、進言してみようかの。 |
ある意味、我々も命がけだがな……。 |
命がけ? |
……行けば、わかる。 |
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!! 魏騰のクソ野郎がぁああああッ!! 生皮 剥いで、ブチ殺したらぁあああああッ!!! |
なななッ!? |
……な? |
あぁん? なんだ、おめぇら!? 俺のやることに何か文句あんのかぁッ!? |
……う、うわ……!? |
敵だなッ? おめぇらも俺の敵だなッ!? 俺サマに逆らうってコトは、 俺サマの敵だってコトだからなぁッ!! |
い、いえ。 さすがに、 そーゆーつもりでは……。 |
……敵ハ殺ス、敵ハ殺ス、敵ハ殺ス、敵ハ殺ス、敵ハ殺スッ!! 見敵必殺ゥーーーッ!! うっきょぉおおおおおおお〜〜〜ッ!!!! |
ひぃいいいいいいいッ!? |
いいかげんにしなさいッ、伯符!! |
……あ……。 か、かあちゃん……? |
おぉ! 呉夫人サマ! ……た、助かった……。 |
ひそひそ。 (あ、あの女性は?) |
ひそひそ。 (亡き孫堅サマの妻。孫策殿の母上だ) |
本当に、アナタという子は……。 どーして、それほどに 手を焼かせるのです?(涙) |
いいですか? アナタがこれ以上、むやみに人を殺すなら 私は井戸に身を投げて死にますからね!! |
うぅ!? |
……。 わ、わけわかんねぇ〜よ〜。 なんで、かあちゃんが死ななきゃ なんないんだよぉ〜ぅ? |
このドラ息子! そんなことも、 わからないのですか? |
いまだ江東の基盤を 整えていないにもかかわらず……。 むやみに人を殺して恨みを買って、どうするつもり? |
賢者には礼を尽くし、 多少の欠点に目をつぶることができなければ 人はみな背くでしょう。 |
……そのように乱れる国を見るくらいなら!! その前に死んだ方がマシだと、言っているのですッ!! |
……ああ、もうッ! わかったよ、かあちゃん。 魏騰のヤツを許せばいいんだろッ、許せばッ!! |
周瑜殿。 |
ん? どうした、呂蒙。 |
……先ほど、周瑜殿が言いかけた言葉……。 その意味が、わかりました。 |
……あ、あぁ……。 伯符のことか? |
あの人の場合。 度量が広いっていうよりは。 |
単に、人殺しの罪の重さを 理解していないだけだったのですね……。 |
…………。 そー言ってしまうと、ミもフタもないが。 まぁ、そんなトコだろーなー。 |
やはり。 |
がっかりしたか? |
かなり。 |
そうだろうなぁ。 ……で、どーする? |
オマエはまだ若い。 とっとと、見切りをつけて 他の道を模索するのもいいかもしれん。 |
……いえ。 このまま、孫策サマには仕えるつもりです。 |
いいのか? 苦労、するぞ? |
覚悟の上、です。 俺のように学もない、貧乏人の息子が 身を立てるには軍人しかありません。 その事実は、変わりませんよ。 |
……そ、そーか。 本当に、オマエは孝行息子だなぁ。 それに比べ、伯符ときたら……。 |
はははは。 いやだなぁ、周瑜殿。 あの人ような親不孝モノと比べられても、困るッスよ。(笑) |
うむ、その意気だ!! アイツを反面教師にして、 オマエは立派な大人になるのだぞ!! |
はい!! 俺、がんばります!! |
天猿 コメント: | 呂蒙と孫策との出会いのエピソードは、 史実をもとにした話です。 マジメな話をすれば、 初めて会った時から既に 呂蒙にとって孫策とは命の恩人だったのです。 忠誠や尊敬を通り越して 崇拝すら、していたのではないでしょうか。 彼にとっては、まさに 『 運命の出会い 』 だったのでしょうね。 |