三国劇場 |
誇り高き男達 | 原作: かいがら様 文章: 天猿 |
建興九年(西暦231年)
第四次北伐。
VS |
諸葛亮と司馬懿。 両雄が初めて正面から激突した、 この戦いにおいて。 まず、緒戦を制したのは、蜀軍であった。 しかし、 |
……ふ……。 戦術における勝利など、くれてやる。 だが、諸葛亮よ。兵糧の問題、これはどうするつもりかな? |
徹底的に守備を固める司馬懿に対し、 |
……くっ…! 戦略における有利は、手放しませんか。 さすがは、司馬懿。わが軍の弱点を、見抜いていたとは……。 |
諸葛亮は、ついに撤退を余儀なくされたのであった。 魏軍 総司令官を務めていた 司馬懿は、この機を逃さず、追撃作戦に移行。 ……しかし……。 |
馬鹿げてる! |
ほぅ……。 これはこれは、張郤殿。 私の作戦に異を唱えるとは? |
司馬懿殿! なにゆえ、このような思慮の足らぬ作戦を命じるのか? |
思慮が足らぬ、とは失礼な。 ……いいでしょう。 張将軍のお考えを、聞こうではありませんか。 |
諸葛亮ほどの男が、 撤退にあたって何の備えをしていないワケがないッ! 返り討ちにあうのは、目に見えている!! |
…………。 |
兵法にも、記されてあるであろう? 『城を包囲するときは、必ず脱出路をあけておくべし。 引き上げる軍勢は、追うべきではない』 ……と。 |
………………。 |
むやみに敵を追い詰めることもあるまい? ネズミとて、窮地においては猫を噛むのだ!! |
ふ……、ふははははははッ!! |
……な……!? 何が可笑しいッ!? |
いやいや。これは失礼。 しかし。黄巾の乱から、かれこれ四十年も戦場で生き抜いてきた貴公が。 今更、『兵法の教え』を引き合いに出すとは……。笑わせる! |
…………!? |
……ふ……。(笑) 『麒麟も老いては、駑馬に劣る』 とは、まさにこのこと。 |
………なッ……!? |
本当のところ、は。 貴方も、臆病風に吹かれたのでしょう? ……かつての于禁殿のように。(笑) |
司馬懿……。き、貴公……ッ!? 武人を侮辱する、今の言葉!! いかに立場上、私の上官にあるとは言え……。許せぬッ!! |
…ふふふふ…。 ならば、武人らしく。 上官の命には従い、武をもって己の勇を証明してはいかがか? |
……くッ!! |
よかろう……司馬懿め。 ならば、死んでやる。 |
……ああ、死んでやろうとも……。 |
……武人の誇り、ゆえに。 俺が、俺であるために……。 |
一方、撤退する蜀陣営では。
ああ、いいとも。最後尾は死守してやるさ。 ……せいぜい、軍師殿は先を急ぐがいい。 |
これは、穏やかではありませんね。 魏延よ、私の命令が不服ですか? |
『撤退にあたり、敵の追撃に備えよ』 という命令。 ……これ自体は、不服ではない。 |
…………。 |
だが。しんがり、を引き受けるにあたって。 この機会に、軍師殿に言っておきたい言葉がある。 |
………………。 |
これで、何度目だ? 兵糧不足での撤退、など恥の極み! 補給の確保なくして、戦争に勝利はないッ!! |
……む。 今回、投入した輸送機械『木牛』は、 それなりの効果をあげたと自負しますが……? |
あんな道具ひとつで、根本的解決になるかッ!? |
………………。 |
補給面で不安を抱えていた以上。 こたびの出兵、 はじめから勝てぬとわかっている戦ではなかったのか? |
………………。 |
そもそも、なぜ大国 魏と正面から戦う必要がある? 悲しいかな、われら蜀は小国なのだ。 小国には、小国の戦い方があるであろう? |
……黙りなさい、魏延。 |
…………!? |
……かつてオマエが唱えた、無謀なる策。 「長安奇襲作戦」 に、まだ未練があるのですか? |
……た、確かに未練がない、と言えば嘘になる……。 しかし、俺が本当に言いたいのは……。 |
オマエは与えられた任務をこなしていれば、いいのです! 私のやり方に不満があるなら、とっとと去るがいいッ!! |
……ぐぅッ!! |
俺はただ……。 聞いて欲しかっただけだ。 |
……軍師殿のやり方では、勝てぬと。 今の戦い方では、勝てぬのだと……。 |
だが……。ここまで、うとまれては。 それも、むなしい努力なのかもしれぬな……。 |
……そこゆくは、魏の五将軍が一人! 張郤将軍とお見受けいたすッ!! |
く……!? やはり伏兵がいたか……。 |
……張郤殿、覚悟。 我らは高地において弓を構え、 貴公らは谷間においては身を晒している。 ……もはや、逃げ場はない……。 |
なるほど。 さすがは、漢中にその人ありき、と言われた魏延殿。 理にかなった用兵、見事なる布陣よ。 |
ふ……。劉備殿の生前は、漢中太守を任されはしたが。 今はこの通りの、使いっ走り。 誉めてくれるのは、敵の将だけとは皮肉な話だ。 |
ふ……。そう、卑下することもあるまい? 敵味方ではあったが、長い付き合い。 こんな老人の首でよければ。喜んで、くれてやる……。(笑) |
………………。 |
ところで。 |
?? |
確かに。貴公とは、長い付き合い。 漢中攻防戦でも、街亭の戦いでも。散々に苦しめられた。 ……だからこそ、腑に落ちないのだが……。 |
うむ? |
貴公ほどの歴戦の将が。 なぜ、このような無謀な追撃作戦の指揮を取っていたのか? さしつかえなければ、聞かせてくれまいか。 |
そ、それは……。 |
……どうしても、納得がいかないのだ。 貴公との決着を、このような形でつけることになるとは 思っていなかったゆえ……。 |
……よかろう。 この胸の内は、誰かに明かしておきたかったところだ。 実は……かくかく、しかじか……。 |
な、なんと? し、信じられん……。 その司馬懿という男、貴公を殺そうとして、 そのような無謀な作戦を命じたのではあるまいな? |
……あるいは、そうかもしれぬ……な…。(苦笑) 司馬懿が完全に、魏の軍権を握ろうとしているのならば。 曹操様の頃より仕えている、この私は、さぞかし邪魔であろうよ。 |
ひどい話もあったものだ……。 |
ところで。 |
?? |
かつての第一次北伐にて。 貴公が提案したという「長安奇襲作戦」。 あれほど見事な作戦が、なぜ諸葛亮殿に採用されなかったのか? さしつかえなければ、聞かせてくれまいか。 |
そ、それは……。 |
……どうしても、納得がいかないのだ。 もし、あの策が実行されていたなら。 今ごろ、長安は陥落し、魏の西半分は蜀の領土となっていたかもしれぬ……。 |
……よかろう。 この胸の内は、誰かに明かしておきたかったところだ。 実は……かくかく、しかじか……。 |
な、なんと? し、信じられん……。 その諸葛亮という男、貴公を飼い殺しにしようとして、 そのような見事な作戦を否定したのではあるまいな? |
……あるいは、そうかもしれぬ……な…。(苦笑) もし、あの作戦が成功していれば。 軍の総指揮権は、俺に任さざるをえなかっただろうし……。 |
ひどい話もあったものだ……。 |
……………………。 |
なんだかな〜〜。 |
……冷静に考えてみると……。 かなり、腹が立ってくるとゆーか…。 |
本当のところ、理不尽な上官など 殺してやりたいくらいなんだが……。 |
……そーもいかないのが、 お互いツライところではある……。 |
………! |
……魏延殿♪ |
……張郤殿♪ |
♪……ひとつ、相談があるのですが……♪ |
我こそは、魏延なりッ!! 敵の総大将、司馬懿はどこかッ!? |
……ば、馬鹿な!? なぜ魏延が、こんなところまで……。 ええいッ!! 追撃部隊の張郤を、呼び戻せ!! |
ふはははははッ!! 残念だが。……援軍は来ないだろうなぁ♪(笑) |
……な、なにぃッ!? |
魏の張郤、参るッ!! 諸葛亮よ、今こそ決着をつけん!! |
……ば、馬鹿な!? なぜ張郤が、こんなところまで……。 ええいッ!! 迎撃部隊の魏延は、何をしているのですか!? |
ふふふふふふッ!! 呼ぶだけ無駄ッ。 覚悟を決められい♪(笑) |
……なななななッ!? |
ふははははははははははははッ!! |
天猿 コメント: | かいがら様から、いただいたネタを作品化。 悲劇の武将二人による、華麗なる復讐劇。 まったく、お見事な着眼点です。 |