三国劇場
三本の矢
作品提供 : 天猿




建安四年(西暦199年)、袁紹は公孫瓚を易京にて撃破。

河北四州を制圧するにいたる。


袁紹


確たる領土基盤をもたない状況から旗揚げし、

わずか10年で大陸最大勢力へと成長したのである。


三国時代を通しても

これほどの規模で勢力を急成長させた人物は、

袁紹以外に存在しない。


彼もまた、一代の英傑であったことは間違いないと言えよう。




…… しかし、そんな彼も後継者問題では頭を悩ませていたようである ……





袁紹 袁譚、袁熈、袁尚、わが三人の息子達。

および、わが甥の高幹よ。


袁譚 袁熈 袁尚 は!

高幹 はは!



袁紹 本日、オマエ達を一堂に集めたのは、

袁家の明日を担う者達としての
心構えを説きたかったからだ。

袁紹 同時に、誰が私の後継者としてふさわしいか、

その資質を見極めさせてもらおうかと思っている。



高幹 ……お待ち下さい、袁紹様!

袁紹 むぅ?

高幹 私はあくまで貴方の甥にすぎませぬ。

高幹 後継者は、三人のご子息の中から選ばれますよう。

私は分相応に、親族の一人として
袁家をもりたてていきたく存じます。

袁紹 ふむ。

確かに、そうかもしれぬな。

高幹 私は、席を外した方がよろしいのでは?

袁紹 ……いや、席を外すことはない。
高幹よ、おぬしも袁家の一員なのだ。

立会人として、一歩さがって見物してくれ。

高幹 承知しました。





袁紹 では、気を取り直して話を続けよう。

三人の息子達よ。

袁譚 袁熈 袁尚 ははっ。

袁紹 今から、私がだす問題を見事に答えてみせよ。

それに答えられぬようでは、私の後継者たる資格はない。
こころして、かかることだ。

袁譚 袁熈 袁尚 ……!!

して、その問題とは?




袁紹 うむ。

ここに、三本の矢がある。

袁紹 一人に一本づつ渡すから、折ってみてくれ。

袁譚 袁熈 袁尚 ???

袁紹 ん?
どうした、オマエ達。

こんな矢も、折れないのか?(笑)





ポキッ


袁譚 何を言われますか!(怒)


ポキッ


袁熈 ご覧下され。

造作もありません。


ポキッ


袁尚 このようなもの、子供でも折れますぞ。(笑)





袁紹 ふふふ。子供でも折れる、か。(笑)

ならば、新しい矢を渡すから、
もう一度やってみせて欲しい。

袁紹 ただし。

今度は、三本束ねた状態で挑戦してもらおう。

袁譚 袁熈 袁尚 ははは。

一本が三本に増えたところで……。




ググッ


袁譚 ……あ、あれッ!?


グググッ


袁熈 ば、馬鹿な??


ググググッ


袁尚 お、折れぬ。

一本のときは、
あれほど たやすく折れたというのに……。





高幹 そ、そうか。

そういうことか。

高幹 一本の矢は簡単に折れても、
三本の矢を合わせればそうもいかぬ。

そして、それは人もまたしかり!

高幹 誰を後継者にしたところで、

兄弟がいがみあえば意味がないのだ。

高幹 兄弟三人、力を合わせることこそが
何よりも大切なことだと。

袁紹様は、それを伝えたかったのだな……。






袁紹 息子達よ。

答えを見つけることは、できたか?




袁熈 はい。

この問いを通じて、
父上のお心を察することができました!

袁紹 うむ!

わかってくれたか!!(笑)




袁熈 どんなに頑張っても、どうにもならんことはある。

袁熈 ♪ 物事は、諦めが肝心 ♪

つまり、それを伝えたかったのですね!!



袁紹 な!?

高幹 ななッ!?





袁譚 馬鹿か、貴様は!

袁熈よ、貴様という男は
いったい何を考えておるのだ?(怒)

袁熈 そ、そんな!?

私の答えが間違っていると?

袁尚 間違っているに決まってるでしょ!

ねぇ、父上?



袁紹 ……う、うむ。(汗)

少なくとも、
袁熈の答えは私を満足させるものではない。

袁熈 で、でも。

いいトコロは突いていたかと……?

袁紹 いいや。問題外だ。(怒)

袁熈 えぇ〜〜〜〜。(涙)





袁譚 ……ふっ♪ 

袁尚よ。どうやら後継者は
俺達二人から選ばれることになりそうだな。

袁尚 さて、それはどうでしょう?

「三本の矢」の意味を真に理解しているのは
実は私だけなのかも、しれませんよ?(笑)



袁譚 ぬかせ、袁尚!

よかろう、わが答えを見せてくれるわ!!

袁譚 おーい、顔良!

顔良はどこだ!?



ダダダダッ! ズザァッ!(足音)



顔良 ははッ! 袁譚様!

顔良は、ここに!!

袁譚 剣だ、おぬしの剣を貸せ!



ジャキーン!



顔良 お目が高うございますな。

無銘ですが、業物でございますぞ♪

袁譚 うむ。充分だ。(笑)

この剣をもってすれば……。

袁譚 三本の矢など恐るるに足らず!!

袁譚 おりゃぁあああああッ!!




ズバッ!!



顔良 お見事な腕前♪

真っ二つでござるなッ!!




袁紹 げッ!!??

高幹 げげぇッ!!??





袁譚 父上、これこそが私の答えでございます。

袁譚 ♪ 目的の為なら、手段は選ばず ♪

つまり、このことを伝えたかったのですよね?



袁紹 え、袁譚……。

オマエというヤツは……。

高幹 ( どぉやったら、あの話が そう伝わるのだろう )





袁尚 ええぃ!!

それが袁家の長兄のすることか。

袁尚 見当ハズレも、はなはだしい!




袁尚 文醜!

文醜は、いずこにある!!



ドドドドドッ(足音)



文醜 ブブブッブ、文醜!

ブ、文醜ハ ココニ ゴザルデスダス!!

袁尚 ここに、三本の矢がある。

折ってみせよ。

文醜 ゴルルルルルルッ!

フンガァアアアアアアアアッ!!




ベキベキ ボキボキ バキィッ!




袁尚 おおぅ♪ さすがは
我が陣営でも一、二を争う猛将よの。

見事な剛力であるぞ!


文醜 ウウウウウ、嬉シイ デスダスッ!!

モ、モット 褒メル 、 文醜 モット 粉々ニスル ゴザルダスッ!!


ゴリゴリッ  グシャッ!


袁尚 ふふふふ。

もはや、原型すらとどめておらぬなぁ♪




袁紹 ……さ、三本の矢が……。(涙)

高幹 (兄弟の絆を示す三本の矢が…… )





袁尚 父上、これこそが私の答えでございます。

袁尚 たとえどのような輩でも、

使いこなして見せることこそ王たる者の資質。

袁尚 ♪ 馬鹿とハサミは使いよう ♪

つまり、このことを伝えたかったのですよね?





袁紹 ……………………………………。

高幹 ( ……もぉ、何も言いたくない…… )





袁譚 でしゃばるな袁尚!

小便くさいガキンチョの分際で!

袁譚 オマエごときが、袁家を継ごうなど百年早いわッ!!

袁尚 やれやれ。

品のない顔で、品のない言葉を吐く人だ。

袁尚 アナタと私に同じ血が流れているなど……。

考えるだけで、鳥肌が立つ思いですよ。



袁譚 おのれぇッ!!

それが袁家の長兄に向かって言う言葉か!?

袁尚 見本にならない兄など、
軽蔑の対象でしかありません。

そんなコトもわからないのですか?(笑)




袁熈 ちょ、ちょっと……。

二人とも、喧嘩はやめなよぉ〜〜。



袁譚 邪魔だ、どけッ!! 袁尚


げしッ!!


袁熈 あうッ!?



袁熈 く、くそぉ〜〜。

こうなったら、ここは公平を期して……。

袁熈 顔良よ、オマエは我が兄 袁譚に加勢せよ!

顔良 承知つかまつった!



袁熈 文醜よ、オマエは我が弟 袁尚に助勢するのだ!!

文醜 ワカッタ ガスデス!










袁譚 おらぁああああああああッ!! 顔良



ガキーンッ ガキーンッ



袁尚 ウラァアアアアアアアアアアッ!! 文醜



ガキーンッ ガキーンッ



袁尚 ぐぅッ!?
弟を相手に本気で剣を振るとは……。

兄上、アナタという人は
本当にケダモノ以下ですねぇ!

袁譚 くっくっくっ♪ 

貴様のコトを弟と思ったことなど、一度もないわ!



ガキーンッ ガキーンッ


顔良 ふふ。文醜よ。本気で参られよ。

貴公と拙者の、どちらが強いか。
前々から、優劣を決めたいと思っていたゆえ♪

文醜 オオオオ、オモシロイ デス ガス ッ!

♪ 顔良 ヤッツケテ 文醜ガ 一番強イニ ナル ガス ♪




袁熈 よし♪

どうにか、バランスが取れてるようだ。

袁熈 まぁ、喧嘩するほど仲がいい、って言うし。

袁熈 兄弟三人、みな仲良く。

袁家の未来は明るいなぁ♪

袁熈 あはははははははははは!









袁紹 ………………。

高幹 ………………。




袁紹 高幹よ。

本当に、袁家の未来は
明るいと信じてよいのであろうか?

高幹 いいえ、袁紹様。

真っ暗闇でございます。






天猿 コメント 『三本の矢』

日本の戦国武将、毛利元就が三人の息子達に
兄弟の絆の大切さを伝えたとされる話です。

けっこう有名な故事ですので、知っている人も多いかと。

袁家の三兄弟とは違い、毛利三兄弟は それぞれ協力しあって、
立派に一族を盛り立てていったそうです。

もっとも毛利家の場合、オヤジの元就が長生きして
目を光らせていたってのもあるんですけどね。