三国劇場
激突!長坂橋(前編)
作品提供 : 迦楼羅 様




建安十二年(207年)

曹操は袁家の残党を一掃し、念願だった華北統一を完成させた。




後顧の憂いを断った曹操は、

翌建安十三年(208年)、

後漢の最高位であった三公を廃して丞相を設置。

自らその地位に就く。


七月、曹操はいよいよ現実味を帯びてきた天下統一を完成させるため、
荊州平定を目指し進撃を開始。



一方、荊州では、八月、折り悪く劉表が病没。

劉表



後継者の劉jは家臣たちの勧めもあり、

曹操に無条件降伏したのだった。



…… その頃、樊城にて曹操来襲の知らせを受けた劉備たちはというと ……





劉備 はぁ!? 

曹操が攻めて来ただぁ?


劉備 七月って言やぁ、劉表殿が亡くなる一ヶ月も前じゃねぇか。

何でそんな大事な情報が最前線であるここに入ってこねぇんだ!
しかも、曹操のいる宛城と樊城は目と鼻の先だぞ!



孔明 どうやら、我々が劉表殿の長男、劉g殿と親しくしていた為に、
劉j殿に逆恨みされたようですね。

どうします劉備殿? この兵力では、曹操の軍勢を防ぐことなど不可能ですぞ。

劉備 じゃ、逃げよう。

この世に命より大切なものなどないからな!

孔明 いや、確かにその通りではありますが……。

(胸を張って言うことでも、ありますまいに )



こうして、劉備はお約束通りの大逃走劇を開始したのだが……。

襄陽を通り過ぎた時のことである。



孔明 わが主君、劉備将軍。

今 襄陽を攻めれば、将軍はやすやすと荊州の支配者になれますぞ。


孔明 ( ふふふ……こうして襄陽に籠りつつ、
 江夏の劉g殿と合流すれば。

 曹操を撃退し、独立勢力を築くことを夢ではない )

孔明 ( やっぱ孔明ちゃんって天才♪)



劉備 お前、馬鹿か?

孔明 へ?



劉備 劉表殿は、荊州では神のように尊敬されていた、えら〜い御方だったのだ。
俺みたいな客将が、いきなり その人の子供を追い出して国を奪ってみろ。

曹操より先に、民から袋叩きにされてコンクリート詰めだぞ。

劉備 それに劉表殿は同姓ということで多大な恩を受けた。

今となって、恩を仇で返すわけにはいかないんだよ。


孔明 はぁ……。



劉備 (臥龍と称された天才も、まだまだ青いというべきか)

劉備 ( まったく、先ほどの発言、確実に放送禁止モノだぜ。

 内政に関しては一流だが、軍略に関しては二流以下かもしれぬ )

劉備 ( こーゆー危なっかしいヤツに、
 強大な権力を与えるわけにはいかねぇよな。以後 気を付けよっと)



孔明 (チッ、よくもこの私に恥をかかしてくれましたね。
 そうやって世間体を気にしているようじゃ、

 いつまで経っても漢室復興など、夢のまた夢! )

孔明 (そこんとこ分かってんですかねぇ? この手長猿は!)




劉備 ……ん? どーした、孔明。

まるで親の仇でもみるような目で、
私を見つめおって♪

孔明 いえいえ、劉備殿こそ。

出る杭は打てと言わんばかりの目で、
私を見つめてくれちゃって♪


劉備 ……ははは。

気のせいだ、孔明よ。

孔明 ……ふふふ。

やっぱ、気のせいですよね。劉備将軍。



劉備 孔明 あははははははははは♪




とかなんとか。


『 水魚の交わり 』の名に恥じぬ
主君と軍師の信頼関係を築きつつ。

江陵へ向かって逃走を続ける劉備と諸葛亮。

そして、彼らに続く将兵達。



その前に、思わぬ援軍が駆けつける。




殿様〜! 劉備様〜! 

オラたちも連れてってくんろ〜。


劉備 おぉ、民の諸君。

この私を慕って駆けつけてくれたのかい。

趙雲 しかしながら、殿。
この軍民たちと荷車の数、ハンパじゃありませんよ。

これ以上増えては進軍の妨げになりかねませんが?


劉備 あ〜。いいのいいの。

民は多ければ多いほど良し。

劉備 それに。

いざとなったら盾になってもらうからねん♪

趙雲 ……げ。

(この人ってば、表の性格と内心がまるで逆。
 しかも、とても仁者とは思えない発言を平気で言ってのけてるし)



劉備 ん♪

趙雲 ちゃん、どーかした?

趙雲 ……い、いえ。なんでもありません。

(まぁ、こーゆー 図太いところが、
 この人の魅力でもあるのだが)




そんなこんなで。

したたかな計算のもと、
逃走する劉備。


…… その頃、襄陽を占領した曹操軍は ……



曹操 なぁにぃ〜!

劉備は既に逃走しただとぉ〜!?


夏侯惇 あぁ。

どうやら劉備たちは、江陵へ向かったらしい。

曹操 なんだと! 
荊州一の兵站基地である江陵を占領されてはいかん!

夏侯淵! 張遼! 張郤! 許楮!

曹操 すぐに精鋭の騎兵を集め、劉備軍を追撃するぞ!



夏侯惇 夏侯淵 張遼 張郤 は!

許楮 ふぁ〜い。



こうして曹操軍は劉備軍の追撃を開始した。

その速さたるや、一昼夜で100キロという驚異的なスピードであった。


一方、十数万の民を引き連れた劉備軍の進軍速度は日に日に遅くなり、
遂には一日5キロにまで落ちてしまった。



江陵まで 残り約80キロ、

果たして劉備軍は無事逃げ果せる事が出来るのか?

次回へ続く!!



天猿 コメント 劉備が諸葛亮との関係を、
『水魚の交わり』という言葉でたとえたことは有名です。

「自分にとって、なくてはならない存在」

と、いう意味ですね。

しかし、劉備が諸葛亮の進言に対して
全幅の信頼をおいていたか、どうかというと話は別のようです。

事実、ホウ統・法正が生きていたころは、
諸葛亮に戦略的な活躍の場は与えていません。

もっとも、内政の充実や法の設置、においては
諸葛亮をフル活用しています。

放浪の傭兵隊長から、一国の君主へ。
諸葛亮は、それにあたって不可欠な存在ではありました。

劉備にとっての、『水魚の交わり』という言葉は、
単なる美談的な意味ではなく、
リアリスト的な意味を強く含んだ表現であったと、思われます。