三国劇場
曹操くんと袁紹くん
作品投稿 : 迦楼羅




時は二世紀後半、光武帝劉秀により再興された後漢王朝も、

相次ぐ幼帝の即位と、宦官・外戚による権力闘争で加速度的に斜陽化の道を辿った。


その頃、のちに、官渡で雌雄を決することになる曹操と袁紹は、

首都 洛陽の太学で学問に励んでいた。



曹操 袁紹



このエピソードは、南北朝時代の宋の劉義慶が著した、

『世説新語』における、「仮譎篇」十四篇の中の一篇に脚色を加えた、

彼ら二人の青年時代における友情の物語である。




【 後漢の都、洛陽の繁華街にて 】




曹操 突然だが袁紹くん。


袁紹 なんだい、曹操くん。

また悪巧みでも思いついたのかい?




曹操 ピンポ〜ン♪
さすがは袁紹くん、察しがいいね〜。(笑)

しかも、今度は飛びっきりのヤツだゼッ!

袁紹 でもね〜。
先日の強盗ごっこは見事に失敗しちゃったじゃないか。

警備兵に見つかりそうになってさぁ……。

袁紹 押し入った相手が、
トップ10 宦官、十常侍の筆頭、
張譲の屋敷って……。

本当、ありえないってば。

曹操くんのパパ、後始末に
相当 苦労したって話だよ?



曹操 大丈夫♪

この間は行き当たりばったりで失敗したけど、
今度はバッチリ計画も立ててきたからね。(ニヤリ)

袁紹 ふ〜ん。

で、今度はいったいどんな 『 ゲーム 』 をするんだい?

曹操 ふっふっふっ。

大声じゃいえないからね。
袁紹くん、耳を貸してくれたまえ。( ヒソヒソ……)

袁紹 ふむ。さすがは曹操くん。

普段は遊んでばかりいるくせに、
悪だくみとなると、智恵が回るなぁ。(苦笑)

曹操 だろぉ〜♪

じゃぁ、早速決行だ!

袁紹 よぉーし!!

ここはひとつ、僕も
スリルを楽しませてもらうとするかぁ♪




【 洛陽郊外の結婚式場 】




曹操 うむ、この塀の高さなら楽に忍び込めそうだな。

……よっ、と。

さぁ、袁紹くんも。

袁紹 よ〜し。

たぁ!



楽々侵入に成功した二人、

そのまま日が暮れて夜になり、式が始まった。



袁紹 曹操くん。

さすがに、こう何時間もじっとしていると……。

曹操 シィッ!! ……まだだ。

客が泥酔して動けなくなるまで動いてはいけない。



う〜い。ヒック、今日はめでたいぞ〜。

酒だ〜。もっと持って来〜い。(酔)


う〜ん。眠い……。

ぐ〜。




曹操 ……よし。

式が静かになった。
いくぞ、袁紹くん。作戦実行だ!

袁紹 イェッサ〜!



曹操 袁紹 泥棒だ〜! 泥棒が出たぞ〜!

捕まえろ〜!



ん……、ってなにぃ!? 
泥棒だとぅ〜! おい、みんな起きろ!

泥棒が出たぞ!

えぇい、行方をくらます前に

とっ捕まえるのだぁ!!



だだだだだ ッ ( 足音 )



曹操 袁紹 ( やーい。 馬〜鹿、馬〜鹿♪ )




不意を突かれ、おっとり刀で外に出る客たち。

……その隙に、二人は……



ひっ、誰ですか!

あなた達は!?

曹操 ふふふ。

名乗る義務は、ないなぁ。

曹操 さて、と。
おとなしく、私達と共に来ていただこうか?

できることなら、手荒なマネはしたくないのだ。

……い、いやぁあああッ……。(泣)




袁紹 ちっちっちっ♪ 
……無粋だねぇ、曹操くん。

こーゆー時は
もっとスマートに、決めなきゃあ♪

曹操 むかッ。(怒)

では、お手並み拝見といこうじゃないの。




……ぶるぶる……。

袁紹 お嬢さん。
たしかに、僕達は泥棒です。

しかし、ただのケチな盗賊とは違うのですよ。

袁紹 僕達の目的は財貨にあらず。

この家でもっとも価値のある宝物こそを、
頂戴しに参りました。

??



袁紹 この世のどんな宝玉よりも、

美しく輝く、貴き存在。


袁紹 ……そう。

それは貴女のことなのです! お嬢さん!!

……ドキィ!?

( きゅんッ♪



袁紹 貴女が、誰かのモノになってしまう前に。

せめて、ひとときだけでも
僕にも夢を見せていただけませんか?( ニッコリ )

……どきどきどきどきッ♪

袁紹 いっしょに来ていただけますね?

……わ、わかりましたわ……。

でも、初めてなの……。
……や、優しくしてね♪( ぽっ )

袁紹 ははは。

おこころのままに。( はぁと )



曹操 ( か、完全に二人の世界に……。袁紹めぇ〜〜〜ッ )



おい! 何やってるんだ!

曹操 やばい! 見つかっちまった。

ダッシュだ!



袁紹 ええッ、そんなぁ!?

いいところだったのに……。



曹操 バカ!

花嫁は置いてけ! 逃げられんだろうが!

袁紹 仕方がない。

お嬢さん、続きはまたの機会に♪

は、はい。

( ちょっぴり、残念かも )

花嫁泥棒だ〜! 

捕まえて八つ裂きにしろ〜!




当人達にとっては、

軽い気持ちで始めた犯罪ごっこ、

スリル目的の遊びであったとしても。



はたから見れば、立派に犯罪そのもの。

不法侵入に、誘拐及び婦女暴行未遂。


そりゃー、捕まればタダですむわけがありません。


気が付けばいつのまにやら、命がけの鬼ごっこ。

捕まれば、生死にかかわる罰ゲーム。



はてさて、どうなることやら??










曹操 はぁ、はぁ、はぁ……ッ!

ぜぇっ、ぜぇっ!
袁紹



だだだだッ



曹操 ひ、広い屋敷で助かった。

どうやら、うまく撒いたな。



だだだだだだッ



袁紹 う、うむ。そうだな。

このまま庭を抜ければ……。

ぐぬぉ!


ずぼッ


曹操 袁紹くん!

どうしたのだ?



袁紹 や、藪に足を踏み入れてしまった。

袁紹 お、折れちゃいないと思うが、
変な方向にひねってしまって……。

……うう……、痛む。
とても一人じゃ立てそうにない……。

袁紹 曹操くん! 

助けてくれぇ〜!




曹操 …………。(ニヤリ)

袁紹 ??




曹操 お〜い! 

ここに花嫁泥棒をやらかした
ど〜しよ〜ない変態野郎が立ち往生してるぞ〜!



何〜!?

捕まえろ〜!



袁紹 ちょ、ちょっと待て、曹操くん。

お、俺を陥れる気か!?

曹操 ピンポ〜ン♪

だってしょうがないじゃな〜い。

袁紹 な、何がしょうがないのだ、曹操くん?(怒)



曹操 聞くがいい、袁紹くん。

俺には、夢があるのだ。

袁紹 ゆ、夢?



曹操 俺は、いつの日か。

曹操 この世の、すべての花嫁や人妻を、

わが手におさめてみせる!

曹操 かならず……、かならずだッ。



袁紹 ………………。

しょ、正気で言っているのか、曹操くん?

曹操 「この世すべての人妻を手に入れる」

これほどの大望を、冗談で口にするとでも?
見損なわないでほしいものだな、袁紹くん。

袁紹 いや。

むしろ、冗談であってほしいのだが。
心の底から。

袁紹 つーか、遊びじゃなかったのかよ?



曹操 このような形で、君と決別するのは
いささか残念ではあるが……。

袁紹 こら。

人の話を聞け。

曹操 今日の一件でわかった。

今ここで葬らねば……、
袁紹くん、君はいつか俺の最大のライバルとなるだろう。

袁紹 はぁ??

曹操 なんぴとたりとも。

この俺以外に、人妻の心をつかむことは許されないのだッ。

袁紹 ( うわー、なんか目がイッちゃってるし。

 やだなー。何言っても無駄っぽい感じがしてきた…… )





見つけたぞぉッ!

あそこにいる不届きモノを生かして帰すなぁ!



袁紹 うげぇッ!!??

曹操 ふ……。

どーやら、お別れの時が来たようだ。



袁紹 ちょ、ちょっと待て。

そ、曹操くん。
キミというヤツは本当に……ッ!

曹操 さらば、強敵(とも)よ。

俺の胸の中でのみ、生き続けるがいい♪



だだだだだだッ!


袁紹 ……ほ、本当に逃げやがった……。



……どどどどッ!!


殺せぇッ、殺せ、殺せ、殺せぇ!


…………どどどどどどどッ



袁紹 ……。

袁紹 …………。

袁紹 …………ブチンッ。



ぐぐッ!



袁紹 おのれ〜! 曹操〜! 

ヤツだけは、絶対に許さぁーんッ!!

袁紹 ぬおぉぉぉぉぉぉ!!!!

これぞ、四世三公、袁家の底力だぁあああ〜!!!


ズボっ!


袁紹 よぉし、抜けたッ!

しかし、あの野郎だきゃあ
一発 ぶん殴ってやらないと気がすまないぞぉッ!



……だだだだだだッ!!




……くぅッ!

なんと逃げ足の速いヤツラだ!





とにもかくにも、

二人は危地を脱することに成功。



…… その後、袁紹は悪事に手を染めるのをやめ、
品行方正な為政者となり、

かたや、曹操はその後も悪事に手を染め続けたという。


だが、歴史における真の勝者となったのは
曹操のほうであったのは、皮肉としかいいようがない。



〜THE END〜





作者様 コメント: 後漢末から東晋末の名士の逸話を集めた『世説新語』の中の
「仮譎篇」十四篇の内、曹操関連の逸話は実に五篇を数えるそうです。

ちなみに、「仮譎」とは人を欺く言動を意味し、後世における曹操像の原型となった作品です。
真面目なんだかギャグ何だか分からない中途半端な作品になってしまいました。



天猿 コメント 袁紹が花嫁をくどくあたりなどは、
個人的にアレンジさせていただきました。

小説版『鄭問之三国志』における
プレイボーイな袁紹が、とても好きなので。

曹操とのからみでは、どうしても一歩ゆずる描写が
多い袁紹ですが、ここでは ちょっぴり華をもたせてみた次第。