三国劇場
嘘のような、ホントの話
(呉伝:君臣暴発編)
作: 天猿



【 これまでのあらすじ 】

皇帝に即位し、得意絶頂な孫権は、
重臣 張昭の意見を無視して北方の公孫淵に使者を派遣。

しかし、見事に大失敗。

張昭との喧嘩も、修復不能寸前まで深刻化する。

ようやく孫権も、頭を冷やし 張昭に謝罪することを決意するのだが……。



張昭 ん?

門の外が、妙に騒がしいな?



……お、お爺様 大変よ。

門のところに、それはそれはガラの悪い男が来てて。
先ほどから、がなり散らしているのッ!!

張昭 ……ぬぅ……?

きっと、最初に土を盛って門を固めた犯人に違いないわ。

どうしましょう……?



張昭 ……ふぉふぉっふぉ♪

なるほど、ようやく己の非を悟りおったようじゃの。
とにかく、ツラだけでも拝んでやるか。



張昭の館。その門の外にて。



孫権 おおぉーい、ジジイ!!

聞こえてるかぁ?

孫権 返事しろよぉ〜〜〜!

孫権 悪ぃ、認める。

間違ってたのは、こっちだったわ。



門の内側にて。



張昭 ( う……。相変わらず、非礼な若造じゃ。
 あれが、人に謝る態度か? )

……うう……。

なんて男かしら。青い目に紫のヒゲ。
どっからどーみても、ヤンキーそのものだわッ!?

張昭 ……無視しよう。

あんまりしつこいようなら、
ワシは病じゃと伝えて、お引き取り願え。



再び 家にこもってしまう張昭。

そんな張昭の対応に、徐々に孫権もムカついてきて……。



孫権 ……うう……。ジジイめ……。

こっちが誠心誠意を尽くして謝罪してるのに、無視するとは……!?

コラッ、そこのならず者!!

お爺様は病なのよ、諦めてさっさと帰りなさい!!

孫権 なんだと、この小娘!!

俺様……もとい、朕がどこのどなた様か知っての言い草なのだろうな!!

……おーほほほほほほほほッ!!

無知蒙昧にして粗暴な言動も、ここまで来ると笑ってしまうわッ。

孫権 なにぃ!!

いいこと、『 朕 』と言うのはね、

皇帝しか使ってはいけない言葉なのよ!!

これすなわち! この呉では、皇帝 孫権様だけに許される一人称。

オマエのような、不孝者でアル中で恩知らずなお調子者が
自分の事を朕などと言うんじゃないッ!!



陸遜 ……え、えーと。

そこのお嬢さん?
非常に、言いにくいことなのだが……。

……はい?

陸遜 その、不孝者でアル中で恩知らずなお調子者、がな。

……我らの皇帝、孫権様なのだ……。

………う、嘘……。

陸遜 認めたくない気持ちは、わかる。
私だって、認めたくない。そんな男が、一国の皇帝などと……。

だが、これは現実なのだ。




孫権 ええい、ごちゃごちゃとウルサイ奴らだな!

もういい、ジジイが出てこないというなら
いぶり出すまでのことだぁあああ!!

陸遜 ……げッ……!?




孫権 門に火をつけてやる!!

そーすりゃ、ビビって飛び出してくるだろーよ!!
うはははははははははははは!!



孫権、着火



陸遜 わわわわわッ!?

ひぃいいいいいいいいいいいいッ!?




孫権 派手に、燃えろやぁああ〜〜〜〜〜ッ!!(無双3: 黄蓋風 )



門の内側にて



張昭 ……ゴーッホ、ゴホゴホゴホッ!!

こらぁ、若造!! なんてコトするのぢゃ!?



孫権 うははははははははは!?

やっぱり、そこにいたかぁ、ジジイ!!
さぁ、出てくるのだ!! そして、俺の謝罪を受け入れるのだあああ♪

張昭 馬鹿もぉーん!!

誰が出るもんかぁ!?
そっちがそうくるなら、門をますます固めるまでのことぢゃあああ♪




陸遜 ……わぁあああああああ!?

お、お嬢さん!! もはや、奴らは尋常ではありません!!
ここから早くお逃げくださ……。

陸遜 ……あ、あれ?

陸遜 ……いつのまにか、娘の姿が見えぬな。

どこへいったのだ……?



門の内側にて



張昭 うはははははああああッ♪

徹底抗戦じゃ、籠城じゃ、聖戦じゃッ!!

張昭 たとえ死すともッ!!

……あの若造の思うようには、させないからなぁああああッ!!



はいはい、オジイチャン。

もーいいから。
……そこまでにしておきましょうね〜。

張昭 ……な、なんじゃと!?
この敗北主義者めッ!!

ええい、所詮は小娘。
この場に及んで怖じ気づくとはッ!?

……黙れ。

若い私は、オジイチャンと違って未来ある身なのよ?

張昭 ……ぐ…ッ。

喧嘩の相手が孫権様だったなんて……。
そーゆー大事なことは、最初に説明して欲しかったわ!!

( たぶん、信じることはできなかったでしょうけど……)


ガシッ!!


張昭 うう……ッ!?

何をする? 放せ、放さんかぁッ!?

ふふふ。

古来、籠城戦とは味方の裏切りによって
決着がつくことも多いのよね……。

張昭 ……ま、まさか……!?



史書によると、君主を恐れる張昭の子息が、
張昭を手に抱えて連れ出したという



張昭 うおおおおおおおお〜〜〜!?(泣)

ユダめぇえ!! 明智光秀めぇ!!
ブルータスよ、おまえもかぁ〜〜!!

すいませんねぇ、孫権様。

ウチのオジイチャン、年のせいか
最近 わけのわからない言動が目立つようになって……。



孫権 ははははははは。

オッケイオッケイ。
なーに、悪いようにはせぬ。お手間を取らせたな?

いえいえ。

皇帝陛下に、わざわざ屋敷まで足を運ばせてしまったのですから。
このくらい、当然ですわ♪

孫権 ふふふ。なかなか道理をわきまえた娘よ。

よーし、兵士ども。ご老人を馬車に積み込めぇ!!
そして速やかに、我が城へと連れ去るのだぁあ!!

張昭 うおおおおおおおおおおお〜〜〜!?(泣)

これは拉致じゃぁああ!!
誘拐じゃぁあああああああ!!



孫権 ふ……。どうやら、この勝負 俺の勝ちだな。

だが、勝利とはどこか虚しいものだ……。

陸遜 ……虚しいのは私です。

ていうか、孫権様。当初の目的を忘れてませんか?
張昭殿に謝罪するために、ここに来たのでは?




孫権 ……あ。

そー言えば、そうだっけ?


陸遜 ……そもそも、どこの世界に
家臣の家に火をつける皇帝がいるのですか!?

後でそのことも、しっかり謝るのですよ!! いいですね?

孫権 ……うう……。

孫権 ( ちっくしょー、うるさいヤツだな。いつか、コイツもいじめてやる!)



やがて。

孫権もまた、張昭を押し込んだ馬車に乗り込み、その場を去っていったという。



……ふぅ……。

まったく嵐のような数日間だったわ。
それにしても……。

……我が国 呉には問題児が多いというけど。

絶対、一番の問題児は君主の孫権様よねぇ……。(笑)

このぶんだと、他にも何をしでかすやら。

後継者問題を深刻化させたり、
立派な功臣を憤死させたりとかしなきゃいいんだけど、ね……。




なんだかんだでバタバタあったが。

城に張昭を連れ去った後は、孫権も深く彼に謝罪し、

めでたく両者は和解したと伝えられている。


なお、張昭が病死するのは、これより2年後。

最期の最期まで、主君 孫権の好敵手としてあり続けた男だったとも言えよう。


とにもかくにも。

事実に基づくノンフィクションストーリー、これにて完結!!




天猿 : 孫権が門に火を放ったり、無理矢理 馬車に張昭を押し込んで
運び去ったのは、史実です。……念のため。

なお、張昭の孫娘に関しての記述は、嘘八百。全てを鵜呑みには、なさいませんように(笑)