三国劇場
嘘のような、ホントの話
(呉伝:君臣開戦編)
作: 天猿



【 これまでのあらすじ 】

呉暦 黄竜三年(西暦232年)。

皇帝に即位し、得意絶頂な孫権は、
重臣 張昭の意見を無視して北方の公孫淵に使者を派遣。

そんな孫権の態度に怒った張昭は、家に帰ってしまい……。



孫権 ……あれ?
ここ数日、張昭の姿を見ないな。どーしたんだ、あのジジイ?

陸遜、何か知ってる?



陸遜 ……どーしたも、こーしたもありませんよ。

張昭殿は、病だそうですよ。

孫権 はぁん?
あの元気すぎるジジイが、病気ってタマかよ?

切っても突いても死なない、ってのはあのジジイのためにあるような言葉じゃねぇか。

陸遜 ……しかし、現に病を理由に出仕されてないわけですし……。



孫権 ……いーやッ!

俺には……もとい、朕にはわかる!!
ヤツは嘘をついているのだ……ッ。

陸遜 な、なにか張昭殿がヘソを曲げるようなことをしたのですか?

孫権 ……ふ……ッ。心当たりはたくさんあり過ぎて困るくらいだが。(笑)

しかし、やっぱ先日 ジジイの意見を無視して、
公孫淵に使者を送ったことが、決定打になったようだな。

陸遜 しゃ、洒落になってないですよ、それ。

ちゃんと張昭殿に謝らないと……。



孫権
……ふざけるな。(怒)

いいか? 奴のやってることはだな、
病だのと見え透いた嘘をかましてのサボタージュなんだぞ!

これに甘い顔してられるかぁ!?

目にモノ見せてくれるわ! クソジジイめ!!


陸遜 ( ……うわ……。逆ギレっていうんじゃねーの、これって?)



数日後。張昭の館にて。



張昭 ……ふぉふぉっふぉ♪

若造め、今頃 青い顔してるんじゃろうなぁ。

張昭 呉の重鎮にして長老たるワシに
見限られては、たまらんからのぉ。

張昭 ……まぁ、そろそろ向こうから泣きついてくるころじゃ。

素直に謝るなら、今回は許してやらんこともない。(笑)



た……大変ですわ、お爺様!!



張昭 なんじゃなんじゃ、我が孫娘よ。

そのように取り乱しおって。何があったのじゃ?

わ、わ、わ、我が家の門に……。

張昭 ……!

ふぉふぉふぉふぉふぉふぉっふぉ♪(笑)

……な、何が可笑しいのですか、お爺様?



張昭 わかっておる、わかっておる。

孫権様が、直々に訪ねてこられたのじゃな?
今、門の前でワシが出てくるのを待っておられると……。

……はぁ?

張昭 ……あ、あれ。

違ったかの?



全然、違うわ!

わけのわからないことを言い出すのはやめてよねッ!
ついにボケたのかと思ったじゃない!?

張昭 ……う……。

( きつい孫娘じゃ。いったい、誰に似たのやら?)




とにかく、門まで来てみて!

家の前が、大変な事になってるのよ!

張昭 ……う、うむ……?



急ぎ、館の門に足を運ぶ張昭。

そこで、彼が見たモノは……。



張昭 ……な、な、なななななッ!!

何じゃ、こりゃぁああああああ〜〜〜ッ!!

ね! ね!?

スゴイでしょ、これ……。




門の外から、うず高く積まれた土の山。

門を開けて、家から出ることもできないという有様。




張昭 ……こ、これは……?

まったくヒドイ嫌がらせだわッ!!

世の中には、なんて非常識な真似をする人がいるのかしらッ!?



張昭 ……う……。

ひ、非常識と言えば……!

え?

お爺様、犯人に心当たりがあるの?



張昭 ……うむ。約1名、な。

ど、どんな人!?




張昭 うむ。そやつは狩が大好きでな。

アニキが狩に出た際に暗殺された事もあるくせに、
性懲りもなく趣味を続けておる。特に、虎を狩るスリルがたまらないらしい。

まぁッ!

身内の死から何も学ぼうとしないなんて!
許し難い、不孝者だわ!!


張昭 しかも、大の酒好き。おまけに酒癖は最悪。湖に船を浮かべ、

『皆で、船から落っこちるまで飲もうぜぇ』と叫ぶこともある。

なんてヤツ!

酔っぱらって船から落ちたら、絶対に溺死するじゃない!?
死にたいなら、一人で死ねばいいんだわッ!!


張昭
そんなんでも、けっこう責任ある立場の男でな。
酒の席での失敗が重なり、さすがに反省することもあった。

『自分が三杯以上、酒を飲んで下した命令は無効と考えてくれ』

と、部下に言い含めているようじゃ。


馬鹿じゃないの!?

禁酒すればいいだけのことじゃない!!


張昭 あげくに、恩知らず。

しょっちゅう部下や仲間とトラブルを起こすヤツなのだが、
そんな自分をうまく取りなしてくれる諸葛瑾という男を、ロバ呼ばわりするのだ。

……し、信じられない!

とんでもない外道だわ!!
そいつこそ、ロバ以下じゃないの!!




張昭 ……ふ……ふふ。

うむ。ヤツが何を考えて、このような愚挙に出たか。
ワシには、手に取るようにわかるわい……。



孫権
やーいやーい♪

ジジイ、出仕したくねぇんなら出仕しなくていいからな!!
門を土で固められたら、家から出たくても出られないだろーよ!!

うひゃひゃひゃひゃひゃ!!




張昭 ……よかろう……。断固、戦ってやるわぃ……。

……立派だわ……。お爺様。(涙)

どんな馬鹿タレが相手か知らないけど、私も応援しちゃうから!!




張昭 ……我ら 張家への挑戦、受けて立つ!

この戦いこそを、『聖戦』と呼ぶべし!!



張昭の無言の抵抗に対し、実力行使で反撃に出た孫権。


しかし、張昭もこのままで済ましはしない。

ガンジーのような相手の良心に訴える『非暴力の抵抗』は、

孫権には通じないとわかったのだから。


燃え上がるは闘志、脳裏に浮かぶは妙計。


次回、張昭の戦いにご期待ください!!




天猿 : 孫権が張昭の態度に怒り、
門を土で固めたのはホントですよ。念のため。