三国劇場
司馬狩り
作: とます 様



司馬懿は、その優れた才覚によって
魏の重臣としての地位を築いた。

やがては、彼の一族も政権の要職を占めるようになる。


だが、そうした司馬家の躍進を妬む者も多く
いつしか司馬懿は疑心暗鬼の極致に陥っていた。


そんなある日の、

洛陽 城中にて。


司馬懿 陛下に蜀討伐の作戦について説明に来たのだが。
……どうも先客がいるようだな。

おそらくは曹真殿か。
いましばらく、廊下で待たせてもらおう。



その時、司馬懿の耳に入ってきたのは。



曹丕 ……というわけだ。
今のうちに司馬孚(シバフ)を
バッサリやってしまおうと思うのだが。

どう思う、曹真?



……という、曹丕の言葉。



司馬懿 (な、なんと! 我が弟 司馬孚を!?)



曹丕に続く曹真の言葉は……。



曹真 はい、私も賛同いたします。

司馬孚については、私も面倒が見切れませぬ。



司馬懿 (そ、曹真殿まで!?)




曹真 それに、司馬孚の周囲にも邪魔な者は多うございますぞ。

この際、全てを除かれては?



司馬懿 (くっ……。

 やはり我ら司馬氏は、曹氏政権にとって邪魔ということか?)



実際、部屋の中では。



曹真
先々のことを考えれば、
芝生(しばふ)も周囲の物も、根こそぎ除くべきです。

中途半端に根を残せば、後で面倒なことになりますぞ。

曹真 ( 城の中庭の芝生と、その周囲の草。
 少しばかり、伸びすぎて景観が悪い。

 どうやら曹丕様も、同じ事を考えていた様子。
 さすがに、趣味のいい方でござるな♪ )



曹丕 うむ、この際、根絶やしにした方が後腐れがなくて良いな。

芝生などに情けをかけることもあるまい。
よし、明日にでも、そなたの兵を総動員してかかるのだ!

曹真 お任せあれ。

余すところなく刈り取ってしまいましょう!



たまらずに、部屋へ駆け込む司馬懿。



司馬懿 ひぃぃぃっ!

お待ちください陛下!

曹丕 おお、司馬懿か。

聞いての通りだ。明日にも取りかかるぞ。

司馬懿 へ、陛下、なにとぞ御慈悲を! 

司馬孚(シバフ)は陛下の役にたちこそすれ
仇なす者ではございません!

曹丕 うーむ……。
たしかに、そちの申す通り、
芝生(しばふ)は我が心を和ませてくれることもある。

だが、こちらの身にもなってくれ。毎日、世話をせねばならんのだぞ。

曹真 さよう。
それとも、貴殿が代わりに芝生の世話をしてくれるのか? 

水をやったり、けっこう大変でござるぞ。





司馬懿 水くらい、たやすいこと。
司馬孚は我が兄弟なれば、私が責任を持って面倒を見ます。

どうか寛大なご処置を!

曹丕 ぬう……、おぬしがそこまで言うとはな。
よかろう、ここは抑えよう。

だが今後、芝生の世話は全ておぬしの仕事とするぞ。
よいな?

司馬懿 あ、ありがとうございます!
陛下の御厚情は決して忘れません。

では、その旨を司馬孚に伝えてまいります。失礼!



司馬懿 退出



曹真 ……司馬懿殿が園芸に興味をお持ちとは
知りませんでしたなぁ。

しかし、いくらなんでも芝生が兄弟というのは……。(苦笑)



曹丕 芝生に伝えに行く、とも言ってたぞ。

さすがは、天下の奇才よのぉ。
感性も常人を超えておるわ!(笑)



この後すぐ、曹丕は

「司馬懿には人間の友達がいないようなので、みな仲良くしてあげるように」

との布告を出したという。


一方、このことが切っ掛けで
司馬懿は曹氏政権に対する不信感を募らせ、

後に謀反に及んだとか。



とます様 コメント : 三人とも、耳を掃除してください。(笑)

ちなみに実際の司馬孚という人物は、
兄や甥たちと違って曹氏に尽くした忠義の人らしいです。



天猿 : 芝生と司馬孚、かぁ。なるほど、どっちも同じ読み。まぎらわしいや。(笑)

なお、この司馬孚という人物は司馬懿の弟で、字は叔達。
『司馬の八達』の3番目に数えられ、魏の三代皇帝 曹叡からは
「司馬孚を得ることができて嬉しい。司馬懿がもう一人増えた気分だぜ♪」
とまでに評価された、有能な人物。

結構 長生きしたらしく、司馬懿の死後 甥っ子の司馬昭が、時の皇帝 曹髦を
殺害した際には「こんなことになってしまったのは私の罪だ」と慟哭しています。

晋が建国された後も魏の臣として忠義を全うした、素敵なジイサンといったところですか。

司馬一族にも、こんな人格者がいたのですねぇ。狩るなんて、とんでもない♪(笑)