三国劇場 |
司馬狩り | |
作: とます 様 |
司馬懿は、その優れた才覚によって
魏の重臣としての地位を築いた。
やがては、彼の一族も政権の要職を占めるようになる。
だが、そうした司馬家の躍進を妬む者も多く
いつしか司馬懿は疑心暗鬼の極致に陥っていた。
そんなある日の、
洛陽 城中にて。
陛下に蜀討伐の作戦について説明に来たのだが。 ……どうも先客がいるようだな。 おそらくは曹真殿か。 いましばらく、廊下で待たせてもらおう。 |
……というわけだ。 今のうちに司馬孚(シバフ)を バッサリやってしまおうと思うのだが。 どう思う、曹真? |
(な、なんと! 我が弟 司馬孚を!?) |
はい、私も賛同いたします。 司馬孚については、私も面倒が見切れませぬ。 |
(そ、曹真殿まで!?) |
それに、司馬孚の周囲にも邪魔な者は多うございますぞ。 この際、全てを除かれては? |
(くっ……。 やはり我ら司馬氏は、曹氏政権にとって邪魔ということか?) |
先々のことを考えれば、 芝生(しばふ)も周囲の物も、根こそぎ除くべきです。 中途半端に根を残せば、後で面倒なことになりますぞ。 |
( 城の中庭の芝生と、その周囲の草。 少しばかり、伸びすぎて景観が悪い。 どうやら曹丕様も、同じ事を考えていた様子。 さすがに、趣味のいい方でござるな♪ ) |
うむ、この際、根絶やしにした方が後腐れがなくて良いな。 芝生などに情けをかけることもあるまい。 よし、明日にでも、そなたの兵を総動員してかかるのだ! |
お任せあれ。 余すところなく刈り取ってしまいましょう! |
ひぃぃぃっ! お待ちください陛下! |
おお、司馬懿か。 聞いての通りだ。明日にも取りかかるぞ。 |
へ、陛下、なにとぞ御慈悲を! 司馬孚(シバフ)は陛下の役にたちこそすれ 仇なす者ではございません! |
うーむ……。 たしかに、そちの申す通り、 芝生(しばふ)は我が心を和ませてくれることもある。 だが、こちらの身にもなってくれ。毎日、世話をせねばならんのだぞ。 |
さよう。 それとも、貴殿が代わりに芝生の世話をしてくれるのか? 水をやったり、けっこう大変でござるぞ。 |
水くらい、たやすいこと。 司馬孚は我が兄弟なれば、私が責任を持って面倒を見ます。 どうか寛大なご処置を! |
ぬう……、おぬしがそこまで言うとはな。 よかろう、ここは抑えよう。 だが今後、芝生の世話は全ておぬしの仕事とするぞ。 よいな? |
あ、ありがとうございます! 陛下の御厚情は決して忘れません。 では、その旨を司馬孚に伝えてまいります。失礼! |
……司馬懿殿が園芸に興味をお持ちとは 知りませんでしたなぁ。 しかし、いくらなんでも芝生が兄弟というのは……。(苦笑) |
芝生に伝えに行く、とも言ってたぞ。 さすがは、天下の奇才よのぉ。 感性も常人を超えておるわ!(笑) |
とます様 コメント : | 三人とも、耳を掃除してください。(笑) ちなみに実際の司馬孚という人物は、 兄や甥たちと違って曹氏に尽くした忠義の人らしいです。 |
天猿 : | 芝生と司馬孚、かぁ。なるほど、どっちも同じ読み。まぎらわしいや。(笑) なお、この司馬孚という人物は司馬懿の弟で、字は叔達。 『司馬の八達』の3番目に数えられ、魏の三代皇帝 曹叡からは 「司馬孚を得ることができて嬉しい。司馬懿がもう一人増えた気分だぜ♪」 とまでに評価された、有能な人物。 結構 長生きしたらしく、司馬懿の死後 甥っ子の司馬昭が、時の皇帝 曹髦を 殺害した際には「こんなことになってしまったのは私の罪だ」と慟哭しています。 晋が建国された後も魏の臣として忠義を全うした、素敵なジイサンといったところですか。 司馬一族にも、こんな人格者がいたのですねぇ。狩るなんて、とんでもない♪(笑) |