三国劇場
みょうさい
作: かいがら 様



漢中守護からいったんに帰還した夏侯淵。

その夏侯淵のもとに手紙が届いた。

翌朝、軍議が終わり…



夏侯惇 おい妙才、お前、今日にも漢中に帰還か?

寂しくなるな、また…。


夏侯淵 ああ…。(上の空)



夏侯惇 ん? どうした?

目の下がまっくろだぞ?

夏侯淵 …おい元譲、今いいか?



夏侯惇 ん…?

本日は取り急ぎのこともないので、構わんが…。

夏侯淵 その…悩みがあって。

聞いてくれ。オレに答えをくれ!
お前以外に頼る人間がおらん!


ゆさゆさ


夏侯惇 おいおい、せかすな…。落ち着いて話せ。

何があった? いちから説明しろ。

夏侯淵 お、おう、わかった。実は、もうと…

いや、魏王閣下から親書を頂いた。
その内容が問題で。



夏侯惇 親書を頂くことになんの問題がある。
昔ならいざ知らず、今の閣下から親書を頂いたのだ。
むしろ名誉であろう?



夏侯淵 うーん…
やっぱり言葉ではうまく説明できん。

…いや、とにかく見てくれ。


ぐしゃぐしゃの親書


夏侯惇 ああ、親書をぞんざいに扱うな!
ったく…。どれ…。


ぱらり


宋建が謀反を起こしてから30年余。
お前は一度の戦闘によってこれを滅ぼした。
仲尼も言っている。
『わしとおまえは顔回に及ばない』と。


夏侯惇
…?
なんの問題があるのだ? お前は評価されてるのだぞ?

ひょっとして「仲尼」やら「顔回」が誰かわからないとか?
まず「仲尼」とはな…


夏侯淵 おい、そんな知らないおっさんの事はどうでもいいぞ。

問題はその後だ。

夏侯惇 おっさんって…(苦笑)



夏侯淵 とにかくその先だよ。

はやく読んで、オレを助けてくれ!

夏侯惇 わかったわかった…。

とにかくせかすなって…。


…だが、お前は勇気のみを頼みにしてる所がある。

時には臆病にもならなければ、一人前の指揮官にはなれんぞ。


夏侯惇 …ほら、言わんことではない。
妙才、オレも普段からお前に注意しているとおり、陛下も…

夏侯淵 違う違う! もどかしいな…!

とっととその先を読めよ!
もう、最後だけ読め!

夏侯惇 耳元で怒鳴るな…
(本当にせっかちだな…)

っと…


…不用意に勇をたのむのは一兵卒の芸当であるから慎むように。
これからは「妙才」を見せてくれ。
期待している。


夏侯惇 …だから勇をたのむのは……。

夏侯淵 ああ、じれったい!

オレが聞きたいのは「『妙才』を見せてくれ」だよ!

夏侯惇 …ん?なんの問題がある?

夏侯淵 魏王閣下は何考えてんだ?

夏侯淵 「妙才」を見せろって…

オレとお前と閣下はガキの頃からの知り合いじゃねーか。
見せるもなにも、何十年もオレを見てるだろ?

夏侯淵 今更…

オレ、何を見せりゃいいんだ?



夏侯惇 …ったく…。(苦笑)

だからお前は閣下に浅慮だと言われるのだ。



夏侯淵 (血相変えて)なんだとっ!?

お前でも、言っていい事と悪い事が…!

夏侯惇 いいか?
落ち着いてよく聞け。

…これは閣下の掛詞だ。

夏侯淵 …ん…?

どういうことだ…?

夏侯惇 昔からこういうの好きだっただろ?

閣下は…
この場合は、お前の字と「妙才」を掛けているのだ。



夏侯淵 ははぁ、わかってきたぞ!!

オレを見せるのでなく、オレの「妙才」を見せろって事だな!

夏侯惇 ああ、そうだが…。

本当にわかったのか?

夏侯淵 おう、完璧だ!

ははは!
さすがは元譲だな!



夏侯惇 あ〜…。

本当に大丈夫なのか…?



夏侯淵 ああ、くどいぞ元譲!

これですっきりとして漢中に戻れそうだ!
はははははっ!

夏侯惇 (…何か心配だ…)



数ヶ月後。漢中にて。



張郤 お帰りなさいませ。夏侯征西閣下。

魏王閣下のご気色はいかがでございましたでしょうか?

夏侯淵 おう、張郤、留守居、ご苦労であった!
魏王閣下はお健やかであそばされた!

また、閣下からじきじきに親書を賜った!



張郤 それはようございました…。

して、親書とは?



夏侯淵 うむ!

オレに「妙な才能を見せろ」と!



張郤 !?

またそれは妙な話でございますな…?

夏侯淵 「妙才」を見せてくれ、とあった!

軍功でない、オレの新しい魅力を見せろって事だろ!
きっと!

張郤 (何か微妙にズレてないか…?)

ははぁ、それで、いかがなされますので?

夏侯淵 ふふふ…オレに秘策あり!

これから土木構築関係にはオレも参加する!

張郤 ?

い、いや、総大将がそのような事を軽々しく…。



夏侯淵 (遠くを見つめながら)

はははっ!孟徳め!

夏侯淵 オレに、夏侯一族に土木の才があるとは思うまい!
オレの妙な才能、見せ付けてくれるわ!

夏侯淵 貴様の注文通りにな…!

ははははは!



張郤 (だ…だめだぁ…。この人、自分の世界に入ってるよ…)





かいがら様 コメント : とまあ、こんな訳で、閣下はじきじきに
逆茂木修復を行なっていたわけです。
ああ無常。



天猿 : ははは。夏侯淵の馬鹿っぽさが、いい感じで出ている作品ですね。
実際、こんな風な勘違いで土木工事に参加して
黄忠に斬られたのだとしたら……。曹操も泣くに泣けない話ですなぁ♪