三国劇場
空箱の計
作: とます 様



荀ケの死は、自害であったという。



荀ケ 殿から空の箱が贈られてきた。これは、もはや私は不要ということか。

無念ではあるが、事ここに至っては免れる方法はあるまい。
……さらば。(涙)



それを伝え聞いた諸葛亮は思った。



孔明 なるほど、自らは手を汚さずに邪魔な臣下を処断するとは。
……さすがは曹操、見事な策です。

私も、あの男に使ってみるとしましょう。



数日後

魏延の屋敷にて



魏延 軍師殿から贈り物だと? 

珍しいこともあるものよ。


パカ


魏延 ふむ?


魏延 なんだ、中は空ではないか。

どういうことだ? 


魏延 軍師殿のことだ、何か裏があるな。

対応を間違えて処罰されてはかなわぬ。
ここは誰かに知恵を借りるとしよう。



その翌日

馬良の屋敷にて



馬良 私に用とは?



魏延 荊州きっての知者である貴殿に尋ねたい。

魏延 実は軍師殿から贈り物を頂戴したのだが、これが空箱でな。

魏延 師殿が中身を入れ忘れるはずがない。

これは何か隠された意味があるのではないだろうか?



馬良 ふむふむ……分かりました。

魏延 何、もう分かったと!? 

教えてくれ。




馬良 はい。

『論語』に「君子ハ器ナラズ」との言葉があるのを御存知ですか。

魏延 わからん。どういう意味だ?



馬良 「君子は器のように用途の限られたものではいけない」という意味です。

つまり。
軍師殿は、貴殿が一介の武辺者ではなく
国を背負って立つ重鎮となるよう願っておられる。

馬良 この器を贈ったのには、

そういう願いが込められているのですよ。

魏延 そ、そうだったのか! 
なるほど、「君子ハ器ナラズ」か。

良い言葉だ。私も誰かに向かって言ってみたいな。

魏延 よし、誰かに箱を贈ってみよう!




それからしばらくして、なぜか劉備配下の将が相次いで没した。

演義では彼らの最後を詳細には記していないが、一説には自殺とも言われる。

一方、魏延は文武の鍛錬に励んで出世し人々から君子と称えられたが、
どういうわけか諸葛亮だけは「あれは常識の通じぬ男だ」と魏延を蔑んでいたという。





とます様 コメント : こんな馬良は黒眉だ!(笑)
それはともかく、「君子ハ器ナラズ」というのは本当に『論語』にあります。



天猿 : やべぇ、一瞬 ホントにあった話かと、信じかけちゃったっすよ。
孔明が魏延に空箱を贈ったところから、嘘なのにね。(笑)

220年前後は、結構 多くの蜀の将が死んでるけど、
ほんとにこんな理由だったら、笑えないよなぁ。ははは。