三国劇場 |
逆転の三國志( “呂蒙、惜別” 編 ) | |
作: 天猿 |
三國志ではとかく、悪く描かれがちな魏と呉の両国。
しかし、そんな両国のファンの中には、それを不満に思う人も多いハズ。
(中略)
今から紹介するのは。
そんなろくでもない発想のもと、
一般にあまり知られていない、いくつかの歴史的事実をかき集め、
それをもとに創られたファンタスティックストーリー。
……たとえば。
建安二十四年(西暦219年)、
呉が関羽に対しておこなった、背信行為と呼ばれている『麦城の戦い』。
しかし、この時 病の身を犠牲にした将と、その将に対して献身的な介護を行った君主のことなど、
いったい何人の人が知っているというのだろう……。
……ごふッ……ごほごほ……ごほッ! |
呂蒙……。体の具合は、良くならぬのか? せっかく関羽を討ち果たし、荊州を奪還したというのに。 ここでオマエに倒れられては、 私の喜びも半減するというものだぞ。 |
申し訳ありません。 持病の結核を、こじらせてしまったようです。 ここ数年は、なんとか折り合いをつけて やってこれたのですが……。 |
すまぬ。 無理をさせてしまったようだ。 |
……孫権様。 そのような顔をなさいますな。 病も悪いことばかりではありませぬ。 |
?? |
関羽を欺くにあたって、 一役買ってくれましたゆえ。 今回ばかりは、この肺の病にも 感謝してもいいかもしれませんな。(笑) |
……た、確かに。 普段から病気がちな呂蒙であるからこそ。 病が悪化したと偽り、陸遜に後任をまかせても、 関羽が疑うことはなかったのだろうな。 |
はい。 関羽を油断させ、我らに対する守備を解かせる事。 それこそが、今回の奇襲の成否を決める鍵でした。 |
しかしだな。 病が悪化した、というのは偽りではなかったのか? |
孫権様。 呂蒙殿の江陵占領作戦は、 その虚を突いたものだったのです。 |
陸遜。 言うな。 |
いいえ。言わせていただきます。(怒) 呂蒙殿、あなたという人は……。 いつまで隠し通すおつもりですか? |
……まさか……。 |
事実、悪化しつつあった病状をおしての江陵襲撃。 それが、呂蒙殿の真実です。 そして今、呂蒙殿が倒れられたのは……。 |
黙れ、陸遜!! |
うッ! |
りょ、呂蒙……。 |
孫権様。 どうか、陸遜の言葉はお忘れいただけますよう。 |
……もともと、長くなかった命です。 ただ、残り少ない時間を 無駄にしたくなかっただけのこと。 |
……! |
無理を通さざるを得なかったのも、 才なき身の悲しさゆえ。 しかし大役を果たした今、 ようやく思い残すことなく……。 |
馬鹿者!! |
…………ッ!? |
…長くない? ……思い残すことなく? 縁起でもないことを言うでないぞッ! |
こんな病、すぐに治る。 少々、無理が祟っただけだ。 治るに決まっておるではないか……! それを貴様、弱気に駆られおってからに! |
この……ッ、この大馬鹿者めがッ!! |
……そ、孫権様……。 |
今すぐ、私の住む公安城の内殿に呂蒙を移す。 そして、百方 手を尽くして治療にあたらせる! |
そうだ、医者を募らねばならぬ。 呂蒙の病を治せる者あれば、千金を与えると布告を出そう。 |
ああ、この際だ。 道士でも、祈祷師でも、何でもかまわん。 祈ることを生業とする者達も、集めようではないか。 連中に命じて、星に向かって祈らせよう。 呂蒙の命数を伸ばせ、とな!! |
……そ、そんな……。 一介の武臣にそのような厚遇、身に余ります。 お気持ちだけ、いただきたく……。 |
いいや、許さぬ。 何が何でも、呂蒙を死なせぬ。 ……そう決めたのだ、私は。 |
……ごふ……。 り、陸遜……。孫権様は……。 |
重態の呂蒙殿に気を遣わせてはならぬ、と。 席をはずしております。 |
そ、そうか。 ……ならば今のうちに……。 食事を…取らせていただこう……。 |
見たところ、あまりご気分が優れない様子。 今は、無理に箸をつけなくともよろしいのでは? |
……ふふ……。(笑) ( 知っているぞ、陸遜。孫権様が、 内殿の壁に穴を開けて、覗いているのだろう?) |
……あ。 (ご存知でしたか) |
俺の食事が少しでもすすめば、 左右の者を振りかえって喜ぶそうではないか。 そう聞いては、無理にでも食わぬわけにはいくまい。 |
呂蒙殿が鍼を打たれるときなど、 見ている孫権様の方が痛そうな顔をしますからね。 容態が思わしくなければ、舌打ちして夜も眠らない様子です。 |
……本当に、困った方だ。(笑) |
……はい。困った方です。(笑) |
長くない命と覚悟して、無理を重ねてきたが。 今となっては、一日でも長く生きてみたい気もするな。 殿が、それによってお喜びになるのであれば……。 |
……呂蒙殿……。 |
………うう。(泣) |
孫権様。 また、泣いておられるのですか? 呂蒙殿の死から、もう幾日も経ちますのに。 |
違う、そうではない。 ……昨日、私のもとに、私がかつて呂蒙に与えた 金銀や宝物が、届けられたのだ。 |
?? |
呂蒙が生前、死期を悟った際に、役所の倉庫に委託していたらしい。 『自分が死んだら、お上に返すように』、と……。 |
…………。 |
呂蒙の気持ちに触れて、 ふたたび涙にくれているのだ。 |
呂蒙殿の気持ち、とは? |
呂蒙は。 陸遜、おまえや周瑜・魯粛と違って 裕福な家の生まれではなかった。 |
何の後ろ盾も持たないところから。 貧乏のどん底から、這い上がってきた男だったといっていい。 |
死後、主君に財貨を返すことで、 『私のような者を、厚遇していただいただけで感謝している』 と……。 そう、伝えたかったのではないかな?(泣) |
……ははは。 お言葉ですが、孫権様。 私には、さっぱり わかりませんな。(笑) |
呂蒙殿が、何を思って生き、何を思って死んだか、など。 |
り、陸遜? |
まぁ、あまり興味もありませんし。 故人を偲んで時を過ごすほど、 暇ではないのです。私は。 |
……なんだと?(怒) |
故人を偲んで、泣き暮れて。 そのような無駄な時を過ごすほど 暇ではない、と言ったのです。 ……それが何か? |
陸遜 、貴様……。 |
ならば、問おう。陸遜よ。 貴様の考える、 『無駄ではない時の過ごし方』とは? |
ただ、 来たるべき戦いに備えるのみ。 |
……うっ!? |
我等の手で、関羽を葬った以上。 劉備は、間違いなく復讐戦を挑んでくるでしょう。 |
しかし。 呂蒙殿に後任を任された以上。 私もまた、呂蒙殿と同じく、命をけずって戦う所存。 |
今はただ、自分の責務を果たす事にこそ 専念したいと考えます。 次なる戦いに敗北しては、 先の勝利も無駄になってしまいますから。 |
………………。 |
業腹だが。 ……正しすぎて、認めざるをえん。 |
御理解くださいましたか。 |
……まぁ、な。 “ いつまでも泣いてなどいられぬ ” つまりは、そう言いたかったのであろう? |
はい。 それに……。 |
まだ、あるのか? |
少なくとも、生前の呂蒙殿は 主君の涙を喜ぶ方ではありませんでした。 |
……なるほど、な。 確かに、その通りだ。 ますますもって、 涙に暮れているワケにはいかぬ。(笑) |
よかろう。 故人を偲ぶのは、来たるべき戦いに勝利してからだ。 以後、軍の指揮は 陸遜に全権を委ねるッ!! |
……お、おのれぇええええええッ!! 呉のド腐れ共がぁああああああッ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!! 皆殺しじゃぁッ! |
お待ち下さい、殿! 我等の真の敵は曹操なのです!! ……ここで呉と争うのは得策ではありませぬ! |
……うるさいッ! 曹操なんか知ったことかぁ!! 関羽の仇を討つ!! これはもう決めたことなのだぁああッ!! |
……ううう……! ぐ、軍師殿もなんとか言って下さいよぅ……。(涙) |
言っても、無駄ですけぇ。 |
……無駄っすよ、趙雲殿。 ウチの親分ってば理不尽大将だもん。 |
……あ、あんたらなぁ〜〜〜!(怒) |
天猿 : 個人的に、どーしても呂蒙の扱いに納得のいかないことが多いので。
あえて、思いっきり好意的に描いてみた次第。
……ていうか、某NHK人形劇では関羽をおびき出すために
城門の前で罪のない民衆を虐殺しまくってたりするし。(……まるで逆じゃん)
管理人は呂蒙が好きなのです。このくらいのお遊びは許してちょーだい。