三国劇場
逆転の三國志( “呂蒙、惜別” 編 )
作: 天猿


三國志ではとかく、悪く描かれがちな魏と呉の両国。

しかし、そんな両国のファンの中には、それを不満に思う人も多いハズ。


(中略)


今から紹介するのは。

そんなろくでもない発想のもと、
一般にあまり知られていない、いくつかの歴史的事実をかき集め、
それをもとに創られたファンタスティックストーリー。


……たとえば。

建安二十四年(西暦219年)、
呉が関羽に対しておこなった、背信行為と呼ばれている『麦城の戦い』。

しかし、この時 病の身を犠牲にした将と、その将に対して献身的な介護を行った君主のことなど、
いったい何人の人が知っているというのだろう……。



呂蒙 ……ごふッ……ごほごほ……ごほッ!



孫権 呂蒙……。体の具合は、良くならぬのか?

せっかく関羽を討ち果たし、荊州を奪還したというのに。

ここでオマエに倒れられては、
私の喜びも半減するというものだぞ。

呂蒙 申し訳ありません。
持病の結核を、こじらせてしまったようです。

ここ数年は、なんとか折り合いをつけて
やってこれたのですが……。

孫権 すまぬ。

無理をさせてしまったようだ。

呂蒙 ……孫権様。
そのような顔をなさいますな。

病も悪いことばかりではありませぬ。

孫権 ??

呂蒙 関羽を欺くにあたって、
一役買ってくれましたゆえ。

今回ばかりは、この肺の病にも
感謝してもいいかもしれませんな。(笑)



孫権 ……た、確かに。
普段から病気がちな呂蒙であるからこそ。

病が悪化したと偽り、陸遜に後任をまかせても、
関羽が疑うことはなかったのだろうな。

呂蒙 はい。

関羽を油断させ、我らに対する守備を解かせる事。
それこそが、今回の奇襲の成否を決める鍵でした。



孫権 しかしだな。

病が悪化した、というのは偽りではなかったのか?

陸遜 孫権様。

呂蒙殿の江陵占領作戦は、
その虚を突いたものだったのです。



呂蒙 陸遜。

言うな。

陸遜 いいえ。言わせていただきます。(怒)

呂蒙殿、あなたという人は……。
いつまで隠し通すおつもりですか?



孫権 ……まさか……。



陸遜 事実、悪化しつつあった病状をおしての江陵襲撃。

それが、呂蒙殿の真実です。
そして今、呂蒙殿が倒れられたのは……。

呂蒙 黙れ、陸遜!!

陸遜 うッ!



孫権 りょ、呂蒙……。

呂蒙 孫権様。

どうか、陸遜の言葉はお忘れいただけますよう。

呂蒙 ……もともと、長くなかった命です。

ただ、残り少ない時間を
無駄にしたくなかっただけのこと。

孫権 ……!

呂蒙 無理を通さざるを得なかったのも、
才なき身の悲しさゆえ。

しかし大役を果たした今、
ようやく思い残すことなく……。




孫権 馬鹿者!!

呂蒙 …………ッ!?

孫権 …長くない? 
……思い残すことなく?

縁起でもないことを言うでないぞッ!

孫権 こんな病、すぐに治る。
少々、無理が祟っただけだ。
治るに決まっておるではないか……!

それを貴様、弱気に駆られおってからに!

孫権 この……ッ、この大馬鹿者めがッ!!

呂蒙 ……そ、孫権様……。





孫権 今すぐ、私の住む公安城の内殿に呂蒙を移す。

そして、百方 手を尽くして治療にあたらせる!

孫権 そうだ、医者を募らねばならぬ。

呂蒙の病を治せる者あれば、千金を与えると布告を出そう。

孫権 ああ、この際だ。
道士でも、祈祷師でも、何でもかまわん。

祈ることを生業とする者達も、集めようではないか。
連中に命じて、星に向かって祈らせよう。

呂蒙の命数を伸ばせ、とな!!




呂蒙 ……そ、そんな……。
一介の武臣にそのような厚遇、身に余ります。
お気持ちだけ、いただきたく……。

孫権 いいや、許さぬ。

何が何でも、呂蒙を死なせぬ。
……そう決めたのだ、私は。




しかし。孫権の願いもむなしく。

呂蒙の容態はなかなか良くはならなかった。





呂蒙 ……ごふ……。

り、陸遜……。孫権様は……。

陸遜 重態の呂蒙殿に気を遣わせてはならぬ、と。

席をはずしております。

呂蒙 そ、そうか。

……ならば今のうちに……。

食事を…取らせていただこう……。

陸遜 見たところ、あまりご気分が優れない様子。

今は、無理に箸をつけなくともよろしいのでは?



呂蒙 ……ふふ……。(笑)

( 知っているぞ、陸遜。孫権様が、
  内殿の壁に穴を開けて、覗いているのだろう?)

陸遜 ……あ。

(ご存知でしたか)



呂蒙 俺の食事が少しでもすすめば、
左右の者を振りかえって喜ぶそうではないか。

そう聞いては、無理にでも食わぬわけにはいくまい。

陸遜 呂蒙殿が鍼を打たれるときなど、
見ている孫権様の方が痛そうな顔をしますからね。

容態が思わしくなければ、舌打ちして夜も眠らない様子です。

呂蒙 ……本当に、困った方だ。(笑)

陸遜 ……はい。困った方です。(笑)



呂蒙 長くない命と覚悟して、無理を重ねてきたが。

今となっては、一日でも長く生きてみたい気もするな。
殿が、それによってお喜びになるのであれば……。

陸遜 ……呂蒙殿……。



しかし、彼らの望みは叶えられることなく。

建安24年(西暦219年)、

その年のうちに呂蒙もまた、病がすすみ死を迎える。

享年42歳の若さであった。


呂蒙の死から間もなくして……。



孫権 ………うう。(泣)

陸遜 孫権様。
また、泣いておられるのですか?

呂蒙殿の死から、もう幾日も経ちますのに。



孫権 違う、そうではない。

……昨日、私のもとに、私がかつて呂蒙に与えた
金銀や宝物が、届けられたのだ。

陸遜 ??

孫権 呂蒙が生前、死期を悟った際に、役所の倉庫に委託していたらしい。

『自分が死んだら、お上に返すように』、と……。

陸遜 …………。

孫権 呂蒙の気持ちに触れて、

ふたたび涙にくれているのだ。

陸遜 呂蒙殿の気持ち、とは?





孫権 呂蒙は。

陸遜、おまえや周瑜・魯粛と違って
裕福な家の生まれではなかった。

孫権 何の後ろ盾も持たないところから。
貧乏のどん底から、這い上がってきた男だったといっていい。

孫権 死後、主君に財貨を返すことで、

『私のような者を、厚遇していただいただけで感謝している』

と……。

そう、伝えたかったのではないかな?(泣)




陸遜 ……ははは。

お言葉ですが、孫権様。
私には、さっぱり わかりませんな。(笑)

陸遜 呂蒙殿が、何を思って生き、何を思って死んだか、など。

孫権 り、陸遜?



陸遜 まぁ、あまり興味もありませんし。

故人を偲んで時を過ごすほど、
暇ではないのです。私は。

孫権 ……なんだと?(怒)

陸遜 故人を偲んで、泣き暮れて。

そのような無駄な時を過ごすほど
暇ではない、と言ったのです。

……それが何か?

孫権 陸遜 、貴様……。




孫権 ならば、問おう。陸遜よ。

貴様の考える、
『無駄ではない時の過ごし方』とは?

陸遜 ただ、

来たるべき戦いに備えるのみ。

孫権 ……うっ!?



陸遜 我等の手で、関羽を葬った以上。

劉備は、間違いなく復讐戦を挑んでくるでしょう。

陸遜 しかし。

呂蒙殿に後任を任された以上。
私もまた、呂蒙殿と同じく、命をけずって戦う所存。

陸遜 今はただ、自分の責務を果たす事にこそ
専念したいと考えます。

次なる戦いに敗北しては、
先の勝利も無駄になってしまいますから。





孫権 ………………。 陸遜



孫権 業腹だが。

……正しすぎて、認めざるをえん。

陸遜 御理解くださいましたか。



孫権 ……まぁ、な。

“ いつまでも泣いてなどいられぬ ”
つまりは、そう言いたかったのであろう?

陸遜 はい。

それに……。

孫権 まだ、あるのか?

陸遜 少なくとも、生前の呂蒙殿は
主君の涙を喜ぶ方ではありませんでした。

孫権 ……なるほど、な。
確かに、その通りだ。

ますますもって、
涙に暮れているワケにはいかぬ。(笑)

孫権 よかろう。
故人を偲ぶのは、来たるべき戦いに勝利してからだ。

以後、軍の指揮は 陸遜に全権を委ねるッ!!





一方。蜀では。



劉備 ……お、おのれぇええええええッ!!

呉のド腐れ共がぁああああああッ!!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!! 皆殺しじゃぁッ!

趙雲 お待ち下さい、殿!

我等の真の敵は曹操なのです!! 
……ここで呉と争うのは得策ではありませぬ!

劉備 ……うるさいッ! 曹操なんか知ったことかぁ!!

関羽の仇を討つ!! これはもう決めたことなのだぁああッ!!



趙雲 ……ううう……!

ぐ、軍師殿もなんとか言って下さいよぅ……。(涙)



孔明 言っても、無駄ですけぇ。

馬良 ……無駄っすよ、趙雲殿。

ウチの親分ってば理不尽大将だもん。



趙雲 ……あ、あんたらなぁ〜〜〜!(怒)




……なお。これより千年ののち、

なぜかその理不尽大将が仁徳の主として描かれるトンデモ小説が発売される。

その兄弟分の無茶なヒゲ将軍は神様にまで昇格したりするんだから、世の中わからない。


魏の渋いオヤジは某裏切り者の矢を額に食らって死んだり。

呉の立派な青年も、呪いによって全身の穴から血を吹き出す人間ポンプな死をとげたりと。


『ちょっとそれはないんじゃねーの』

と言いたくなる脚色満載の小説ではあるが、
それはそれでギャップが面白かったりする。




天猿 :  個人的に、どーしても呂蒙の扱いに納得のいかないことが多いので。
あえて、思いっきり好意的に描いてみた次第。

……ていうか、某NHK人形劇では関羽をおびき出すために
        城門の前で罪のない民衆を虐殺しまくってたりするし。(……まるで逆じゃん)

管理人は呂蒙が好きなのです。このくらいのお遊びは許してちょーだい。