三国劇場 |
懐かしき日々 | |
作: 天猿 |
樊城の戦いにて。
関羽の猛攻にさらされる曹仁を救出すべく
出撃した徐晃の軍によって、関羽軍は大敗。
関羽軍は徐晃によって包囲されてしまう。
しかし。
かつて曹操の客将であったころ、関羽は徐晃と親交を結んでいた。
……二人の友情は蘇り、戦場で陣をへだてて語り合い始めるのであった……
さすがだな、徐晃。 まさか、それがしの敷いた十重にわたる堅陣が 突破されるとは思わなかった。 |
……よしてくれ。 呉の呂蒙の計略により、本拠地を奪われ動揺した 貴軍の隙を突いただけのこと。 もし五分の条件で戦えば、どうなっていたかはわからぬよ。 |
ふふ。 いくさに『もしも』はあるまい。 それに、だ……。 |
徐晃よ。 かつては友として、馬の轡(くつわ)を並べた間柄の者から 慰めの言葉をもらうというのは……。 なかなかにつらき事ぞ。(苦笑) |
すまぬ。 貴殿の言葉は、もっともだ。 こちらの配慮が足らなかった。 気を悪くしないでくれると、有り難い。 |
いや。 決して、気を悪くしてなどおらぬ。 こうして、再び貴殿と言葉を交わす機会を得た事。 それこそが、喜ぶべきことだと思っているのだからな。 |
ならば。 今しばらくは、いくさの話はよそうではないか。 戦場とは言え、久しぶりに旧友と出会えたのだ。 ほかに、語り合いたい話もあるだろう? |
…………………。 |
……ふっ。確かに、な。(笑) 本当に、会うのは久しいな。徐晃よ。 |
ああ、関羽。(笑) 貴公が、我が主君 曹操殿に身をよせていた時以来だ。 |
……そうだな。 かつては、それがしも貴殿と共に戦っていたのだな。 あれから、何年たつ? |
19年だ。 |
19年か。 道理で、徐晃も老けたワケだ。(笑) |
関羽、それはこちらのセリフだぞ。 髪はおろか、自慢のヒゲにまで 白髪が目立つようになっていたとは、な。 美髯公も、よる年並みには叶わぬと見える。(笑) |
ははははははは。 |
……ところで、徐晃。覚えているか? おまえが失恋したとき、それがしが酒に付き合って、 二人で一晩 飲み歩いたコトがあったな。 |
もちろんだ、関羽。 |
おまえってば、ぐでんぐでんに酔っ払ってさ。 ゴミ捨て場のゴミの山の中に突っ込み、 そのまま寝てしまったんだっけ。(笑) |
ふふ。 あのときの関羽は、薄情だったよな。 |
うむ。 面倒くさいから、そのまま ほったらかして 帰っちゃったんだよね。 |
目が覚めたとき、すっげー寂しかったよ。 |
そーいや、アレって 確か、冬の時期の話だったよな。 下手こいたら死んでたかもなぁ。(笑) |
ははははははは。 |
……ときに、徐晃。 今だから言えるんだけどさ。 |
なんだ、関羽? |
例のヤケ酒の原因となった徐晃の失恋。 ……実はアレ、それがしのせいだったんだよね。 |
ははは。 怒らないから、言ってみ? |
おまえが好きだった女に、あることないこと吹きこんで 振られるように仕組んだのは、この関羽なのだ。 |
……マジかよ。 なんでそんなコトすんだよ、おまえは? |
いや〜、あの当時は それがしもあの女を狙っていたからさぁ。 …まぁ、よくある話じゃん♪ |
ははははははは。 |
あ、そうそう。 今、思い出したんだけど。 |
うむ? |
徐晃から借りてた金、まだ返してなかったよね。 |
……ああ。 アレは金を貸したってゆーよりは……。 おまえの借金を肩代わりした件のことだろ? |
それそれ。(笑) それがしがギャンブルでの借金でにっちもさっちも いかなくなった時、おまえに頼みこんでさ……。 |
俺が、おまえの借金の保証人になってやったんだっけ。 |
いや〜、あの時は助かったよ。 |
……その翌日だっけ? おまえが千里行かまして、トンズラしたのは。 |
わりぃ、わりぃ♪ ……で、あの後 どうなった? |
全財産、失ったよ。 |
ははははははは。 |
いやいや。 今から思えば、どれもいい思い出だ。 |
…………。 |
青春の、懐かしき日々と言ったところか。(笑) |
……………………。 |
ん? どうしたのだ、徐晃よ。急に黙りこんでしまうとは。 |
我が軍の将兵に告ぐ!! 関羽の首を得たならば、千斤の賞金を与えるぞッ!! |
な、なんと!? 徐晃よ、これはいったいどうしたことだッ? |
思い出話はここまで。 ここから先は国家としてのこと。 今、自分は『私』ではなく『公』の者として、 この戦場に立っているのだッ!! |
……うう……。 しかし、このように いきなり窮地に追い込むようなマネをするとは。 なんて卑劣なヤツだ!? |
……ふふふ。関羽よ。 復讐心とは、この世でもっとも甘美な感情なのだと。 この徐晃、今、身をもって知るところよ。(笑) |
天猿 : 関羽と徐晃の友情に関して、正しくはこちら。