三国劇場
家族
作: 天猿


曹操の謀略によって、父と弟達を殺された馬超。

復讐として挑んだ涼州争奪戦にも敗れ、
その過程で妻子を含む一族の多くまでを失ってしまう。

流亡の末、蜀に辿りつくも、
馬超には常に寂しげな陰がつきまとうようになっていた……。


馬超 …………………………。




張飛 馬超のヤツ。

俺達から離れたトコロで、また一人 たそがれてやがる。
アイツがいると、なんか場が暗くなって嫌になるぜ。



趙雲 張飛殿。そのようなコトを言うものではありません。

多くの肉親を失ってしまった馬超の心の隙間は、
けっして、たやすく埋まるものではないのですから。

孔明 趙雲将軍のおっしゃる通りです。

人は、家族を心の安らぎとするもの。
……思えば、馬超はかけがえのないものを
失ってしまった男なのかもしれません。

関羽 黄忠 うーむ。

どうしたものか?



張飛 ……けっ。

どいつもこいつも、随分とお優しいこったな。



劉備 ……ん?

オマエ達、顔を揃えて何を悩んでいるのだ?

趙雲 孔明 関羽 黄忠 実は……。

かくかく、しかじか。

張飛 いーよ、兄者。ほっとけよ。

俺達が、どうにかしてやれる問題でもねぇし。

劉備 ……いや。そうでもないだろう。

そう判断するのは、
周囲の人間が出来る限りのことをした後の事。

よし。私が馬超に声をかけてみよう。




馬超 ……………………。



劉備 馬超。

もう、蜀には馴れたか?

馬超 こ、これは劉備殿。

え、ええ。蜀とは良いところですな。
寒く渇いた涼州とは異なり、過ごしやすうございます。

劉備 おまえの第二の故郷には、なりそうか?

馬超 はははは……。それは、なんとも。

家族がいない私には、どのように良いところでも、
心の安息を得ることは難しいゆえ。



劉備 では、我々を家族と思えば良かろう?

少なくとも我々は、
家族の一員のように馬超のことを案じておる。
いつも寂しそうにしている馬超のことを……!!

馬超 ……………………ッ!?

りゅ、劉備殿。
そ、それほどまでに私のような者のことを……。

劉備 さしずめ、私のことは父のように思ってくれ。

そなたの本当の父、馬騰殿には遠く及ばぬ男ではあるが……。

馬超 と、とんでもありませぬ!

しかし、なんとありがたき御心遣い……ッ!(感動)



趙雲 孔明 関羽 黄忠 馬超〜ッ!!



馬超 こ、これは皆様。

お揃いで、いったい何事ですか?

劉備 馬超よ。

彼らも、そなたの家族になりたいのだ。

馬超 な、なんと!?



趙雲 孔明 私達のことは、弟とでも思ってください。

むろん、殺された本当の弟御である
馬鉄・馬休殿のような賢弟ではありませんが……。

馬超 何を言われる!?

貴公達ほどの弟がいたら、どれだけ心強いか……。(感動)

関羽 それがしのコトは、兄とでも思ってくれぃ。

馬超 おお……ッ!

これは頼もしき兄上でござるな!?(喜)

黄忠 ワシは貴公のオジイサンになってやろう。

馬超 なんとなんと!?

これは元気な祖父ができたことよ。(笑)

劉備 趙雲 孔明 関羽 黄忠 はははははははははッ!!




馬超 うう……ッ。(泣)

今日は我が人生、最高の日でござる!!



張飛 うう……ッ。(汗)

張飛 ( 今日は我が人生、最悪の日だ!!)

張飛 ( まったく、なんてことだ。

 このままでは俺一人が心の冷たいヤツじゃねぇか!?)

張飛 ( よ、よし。こうなったら…… )




張飛 やいやい、馬超!!

馬超 こ、これは張飛殿?

張飛 俺様は、おまえの母ちゃんになってやろうッ!!

馬超 ……へ?

劉備 趙雲 孔明 関羽 黄忠 か、母ちゃん?



張飛 そうだ、母ちゃんだ。オフクロ様、またはママンとも言う。

思いっきり、甘えてくれッ!!

馬超 ……い、いや……。

それは、ちょっと……。

張飛 遠慮することはないッ!!
さぁ、この胸に飛び込み、むせび泣くがいいッ。

可愛い息子め、ママンは百万ダースのキスをくれてやるぞッ!!

馬超 ……わわわわわ!!

張飛 ええい。
来ないなら、こっちから行くまでよッ。

とりゃぁあああ〜〜〜ッ!

馬超 ひぃいいいいい〜〜〜ッ!

劉備 げげげげげッ!?

い、いかんッ。
誰か、張飛を止めろぉ〜〜〜!!




翌日


孔明 ……馬超が出奔いたしました。

どうやら、蜀には二度と戻る意志がないようです……。

劉備 な、なにぃいい〜〜〜!!(泣)

張飛 ……くっ。残念だ。

どうやら、我々の気持ちが、ヤツには迷惑だったようだな。

趙雲 関羽 黄忠 (いいや。
 おまえの気持ちだけが迷惑だったんだよ、
 この災害的馬鹿野郎!!)