三国劇場 |
一番の食わせ者 | |
作: 天猿 |
劉備を裏切り、徐州を手に入れた呂布だったが。
時を置かず劉備は曹操のもとに転がり込み、出兵を要請。
激闘の末、曹操は呂布を破り、捕らわれた呂布は曹操の前に引き出されたのであった。
曹操。……いや、曹操殿。 縄がきつすぎる。縛るにしても、もっと縄をゆるめてくれ。 |
ははは。虎を縛るのに、縄がきつすぎるということはあるまい。 のう、劉備殿? |
まったくです、曹操殿。 相手は呂布、用心に越したことはありますまい。 |
さて、問題は呂布の処分をどうするかだな。 このまま縛り首にするか、それとも……。 |
ま、待ってくれ、曹操殿ッ! いくらなんでも、 このまま殺されてはたまらぬ。 |
どうだ、俺を使ってみる気はないか? 俺が騎兵を、曹操殿が歩兵を率いれば 天下に恐れるものなどあるまいぞッ!! |
劉備殿も何とか言ってくれッ! |
うーむ。確かに呂布の武勇は惜しいな。 ……さて、劉備殿。どうしたものか? |
……そうですね…、 …どうしたものでしょうか……。 ……うーん……。 |
( ふふふ、呂布め。見苦しい真似をしおって。 曹操も曹操だ、呂布の前科を考えれば迷うことなく殺すべきだろうに ) |
( 裏切りジャンキーの呂布に、人材マニアの曹操か。 いやはや、どっちもどっちだ。まったく、こいつらには つける薬がないな ) |
( まぁ、ここで丁原と董卓の例を出してアドバイスすれば、 さすがに曹操も呂布を殺す方向に傾くだろう。 私としても呂布にはヒデェ目に会わされたからな。 私の一言で、呂布に引導を渡すのもスカッとするのだが…… )) |
( しかし。ここで素直に曹操に呂布を殺させると、 ますます曹操に力をつけさせてしまう。 こんなチビに天下を取らせては最悪の気分だ。 天下を取るべきは、ズバリこの私 ) |
( よし。ここは、曹操に呂布を配下とするよう勧めよう。 まぁ、呂布のコトだ、速攻で曹操を裏切って殺すに違いない。 しかる後に、私が曹操の手下共をまとめあげ、呂布を討つ ) |
( …ふ…ふふふ。我ながら、なんて素敵なアイデアなのだッ! 労せずして曹操を亡き者にし、呂布に再び汚名を着せるとは♪ 何よりも、うまくいけば曹操の抱える最高の人材を全て 自分のモノにできるかもしれぬのだからな♪ うっひょー! ) |
…………劉備殿? |
……はっ!? |
いやいや、失礼。 考え事をしていたもので。 |
さてさて、曹操殿。 天下の人々に徳の将軍と呼ばれる私としてはですね、 やはり呂布の助命をお願いしたく……。 |
…………………………。 |
おや? どうしたのですか、お二人とも? |
…………。 何が、徳の将軍だ、このクソ野郎。 |
な、なんと? 急にどうなされたのですか、曹操殿? |
……どーしたも、こーしたも。 おまえ、先ほどはブツブツと 凄まじく腹黒いコトを口走っていたじゃないか。 |
げぇッ!? |
……ひょっとして。 自分では気づいていなかったとか? |
……うう……。 ど、どのあたりから? |
「こいつらには つける薬がないな」のあたりから。 |
わわわ。 ……や、やだなぁ、二人とも。 全部、ジョークに決まっているではないですかぁ……。 |
……………………………。 |
つ、つまりですね。 曹操殿と呂布殿との間を、つなぐため、 あえて私が悪役を演じたとゆーワケでして……。 |
曹操殿。 劉備の言葉に耳を貸してはいけませぬぞ。 |
うむ。 こやつこそ、一番の食わせ者じゃ。 |
天猿 : ……実際、思ったことを素直に口に出すよーな男だったら、
呂布も曹操も苦労しなかったんでしょーけどね。