三国劇場
言えない (その二)
作: 天猿



荀ケ 私は荀ケ。最近、殿が魏公になることを諌めたコトが原因で、

殿と私の間がぎこちなくなってしまった……。

気が滅入って出仕もままならぬ。どうしたものか……。



ドス、ドス、ドス !! (足音)




許楮 じゅんいくどのぉ〜。

お見舞いに来たよぉ〜。

荀ケ おや、許楮殿。お心遣い、痛み入ります。

(……ちッ。また馬鹿か。
 余計に気が滅入るというものだ)

許楮 お土産があるよ。

殿が、美味しいものを食べて元気を出して欲しい、って。

許楮 はい、コレ。

この箱に入っているよぉ。



荀ケ ……と、……殿が、そのようなお言葉を……!?

荀ケ やはり殿は、まだ私を必要としてくださっている。
有り難き幸せとは、まさにこのこと。

ううう……ッ……。(感涙)

荀ケ それに、
このような見舞いの品まで。

荀ケ ここは、謹んで受け取る事こそが礼儀というもの。

では、さっそく中身を確かめさせて……。



荀ケ …………ん?

こ、これは空箱ッ!?

許楮 あれ〜?

変だなぁー。



荀ケ ……そうか。

そういうことか。

荀ケ 料理の礼を言えば、
送ったのは空箱のハズだと言って、私の不実を責め。

礼を言わねば、
料理を送ったハズだと言って、私の非礼を責めるつもりか。

許楮 ええッ?

…いや、それは考え過ぎだよぉー。

荀ケ ……フ……。いや、私にはわかる。

ここまでうとまれたなら、もはやこれまでッ!

荀ケ 苦杯をなめて生にすがるくらいなら
いさぎよく毒杯をあおり死するのが、士というもの。

さらばだッ!

許楮 (がーんッ)

うわわわわわわーッ!?



ドス、ドス、ドス … (足音)



荀ケ ……う……うむ……、きょ、許楮殿が……泣き…ながら…帰ってい…く……。

…私の……ために……泣い…くれる……と……は……思って…な……かったな……。

……ごふッ……。 (ガクリ)



数日後



曹操 先日、荀ケが失意のあまり、毒を飲んで死んでしまったそうだ。

許楮よ。いったい彼の身に何が起きたのか、知っていることはないか?

許楮 (…い、言えないッ。嘘を教えられた仕返しに

 オイラが料理を食べてしまったからだなんて、とても言えないッ)