三国劇場 |
言えない (その二) | |
作: 天猿 |
私は荀ケ。最近、殿が魏公になることを諌めたコトが原因で、 殿と私の間がぎこちなくなってしまった……。 気が滅入って出仕もままならぬ。どうしたものか……。 |
じゅんいくどのぉ〜。 お見舞いに来たよぉ〜。 |
おや、許楮殿。お心遣い、痛み入ります。 (……ちッ。また馬鹿か。 余計に気が滅入るというものだ) |
お土産があるよ。 殿が、美味しいものを食べて元気を出して欲しい、って。 |
はい、コレ。 この箱に入っているよぉ。 |
……と、……殿が、そのようなお言葉を……!? |
やはり殿は、まだ私を必要としてくださっている。 有り難き幸せとは、まさにこのこと。 ううう……ッ……。(感涙) |
それに、 このような見舞いの品まで。 |
ここは、謹んで受け取る事こそが礼儀というもの。 では、さっそく中身を確かめさせて……。 |
…………ん? こ、これは空箱ッ!? |
あれ〜? 変だなぁー。 |
……そうか。 そういうことか。 |
料理の礼を言えば、 送ったのは空箱のハズだと言って、私の不実を責め。 礼を言わねば、 料理を送ったハズだと言って、私の非礼を責めるつもりか。 |
ええッ? …いや、それは考え過ぎだよぉー。 |
……フ……。いや、私にはわかる。 ここまでうとまれたなら、もはやこれまでッ! |
苦杯をなめて生にすがるくらいなら いさぎよく毒杯をあおり死するのが、士というもの。 さらばだッ! |
(がーんッ) うわわわわわわーッ!? |
……う……うむ……、きょ、許楮殿が……泣き…ながら…帰ってい…く……。 …私の……ために……泣い…くれる……と……は……思って…な……かったな……。 ……ごふッ……。 (ガクリ) |
先日、荀ケが失意のあまり、毒を飲んで死んでしまったそうだ。 許楮よ。いったい彼の身に何が起きたのか、知っていることはないか? |
(…い、言えないッ。嘘を教えられた仕返しに オイラが料理を食べてしまったからだなんて、とても言えないッ) |