三国劇場 |
美髯公 (第三話) | |
作: 天猿 |
樊城の戦いにて于禁に勝利を収めつつも、
呉の呂蒙の奇計にて後方を遮断された関羽。
麦城に逃げ込んだが呉の大軍勢の包囲から逃れることはかなわず、
関羽親子は捕らえられ孫権と対面することとなった。
関平よ、我らの武運はここまで。 武人たるもの、決して散り際が見苦しいものであってはならぬぞ。 |
……ええ、父上。 覚悟は出来ております。 |
関羽よ。 このような形で、おぬしと対面することとなったのは、 この孫権 まことに遺憾に思う。 |
だが、おぬしほどの名将を斬るのはしのびない。 どうか、私に仕える道を選んではくれぬか? |
ふん。 碧眼紫髯の小僧が笑わせるわッ。 |
この関羽、劉備兄者と《桃園の誓い》を結んで30余年。 かつて曹操からの誘いにすら、心を動かされることはなかった。 まして、キサマごとき こわっぱになど! |
さぁ、さっさと首を斬るがいいッ!! |
孫権様。 関羽はけっして劉備以外には仕えませぬ。 生かしておいても我らの禍根となるだけですぞ。 |
ううむ……。 呂蒙、おぬしがそう言うのならば…。 やむをえぬ、関羽の首を斬れぃ。 |
関羽殿。 許せ、とは言わぬ。これも乱世のならい。 ……だが、せめて。 何か 言い残すことはあるだろうか? |
……ふっ。 ならば、ひとつだけ頼みたいことがある。 |
聞こう。 |
首を斬るとき、 絶対に それがしのヒゲには傷をつけないでもらおう!! |
はぁ!? |
首を斬られようとも、 この美しいヒゲだけは一本たりとも切られたくはない。 それがしの首を落とすときには、細心の注意を払うのだぞ。 |
……ちょっと待て。 そ、そんなことよりも。 荊州の領有問題とかについて 言い残すことがあるんじゃないのか? |
それがしのヒゲを、そんなこととは何事だ!? ハッキリ言って、荊州一国よりもそれがしのヒゲ一本の方が よっぽど大事だッ!! |
…………。 りゅ、劉備殿や蜀の国について 言い残すこととかはないのか? |
まー、それはそれで、なるようになるだろう。 |
………………。 な、なるようになるって……? |
とにかく、今 話すべき問題はヒゲについてである。 オマエ達、ありがたく拝聴せぃ! |
( ……あ、ありがたくない……) |
……そういうわけで、だ。 とにかく大事なのは首を斬る際に、 ヒゲを血で汚すような無粋な真似をしないことである。 |
…………ッ。 |
くわえて。 死化粧の際も、ヒゲの手入れは入念にすること。 許都から漢王室愛用の香油と白髪染めを取り寄せて欲しい。 |
……………………ッ。 |
一応、念を押しておくが……。 それがしのヒゲに対して、哀悼の詩を作らせること。 これは必須だ。絶対にはずせない。 |
そうだな、曹操か曹稙あたりが望ましい。 千年の後に至るまで、 それがしのヒゲの美しさを伝えるのだッ!! |
………………………………ッッ。 |
……ん? オマエ達、返事はどうした? |
えぇと、孫権殿? ……私としては、ですね……。 |
関平殿、言わずとも良い。 ここにいる三人、気持ちは同じだッ。 呂蒙、わかっているな? |
はい、言わずとも。 ふふふ、決定ですな。 |
はて? 三人とも、何が決定したのだ?? |
首を斬る前に、ヒゲを全部 剃ってやる。 |
ぬなッ!? |
おーい、誰か。 もっと、よく切れそーなカミソリを持って来い。 |
ひいいッ!? カミソリとはきつすぎるッ! なんとかしてくれぃ!! |
ははは。 ヒゲを剃るのに、カミソリが鋭すぎるということはあるまい。 |
そ、孫権殿! ヒゲだけは助けてくれぃ! |
……そ、そうだッ! それがしを使ってみる気はないか? それがしが騎兵を、そなたが水軍を率いれば、 天下に恐れるものはあるまいぞッ! |
ええいッ。 父上、見苦しいぞ! 死ぬときは死ね。(笑) |
天猿 : ラストシーンは、呂布の最期をパロディにしました。